つと)” の例文
旧字:
そないいいなさるか思たら、一所懸命歯ア喰いしばって、眼エに一杯たまってた涙が急にポトポトべたつとてるのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の体は前岸かわむこうの平らかな岩の上に持って往かれた。彼は三年目にしてはじめて白竜山の本山ほんざんの中へ一歩を入れることができた。彼はよろこんで岩をつとうて往った。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
瑠璃子は、そっと足音を立てないように、縁側ヴェランダつとうて兄の書斎へ歩み寄った。とゞろく胸を押えながら縁側ヴェランダに向いている窓の硝子ガラス越しに、そっと室内をのぞき込んだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
百二十年以前いぜんたるところの人ありとつとところの文珠岩は即ち之れなり、しゆみな拍手喝釆かつさいして探検者たんけんしや一行の大発見をよろこただちに丘下にいたりてあほぎ見れば、丘のたかさ百尺、天然の奇岩きがんこつとして其頂上に
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
僧が岩をつとうてあがって来た。顔の大きな男はその方に注意しながら顎髯あごひげの男に云った。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なつかしいにおいが廊下つとて来ますねん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
老婆は一声ひとこえうなるような声を出して、蟇の足を左右に引いた。蟇の尻尾しっぽの処が二つに裂けてその血が裂口さけぐちつとうてコップの中へしたたり落ちたが、それが底へ微紅うすあかく生なましくたまった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)