二布ふたの)” の例文
金はうなるほど持つて居るに違ひない癖に、よれ/\の布子ぬのこ一點づつ、お百などは腰切半纒こしきりばんてん二布ふたのを引つかけて、髮の毛などは雀の巣よりも淺ましい姿です。
『男、ててらに、女、二布ふたの』という歌の文句のとおり、一日中、細紐一本でいて、体面をつくろうことのいらぬ庶民生活の気安さを、心いくまでりいれていたのだった。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
云いながらおなつは帯を解き、肌衣と二布ふたのだけになった。そうして脇にある鏡台からはさみを取ると、手早くふつふつと元結を切り、ばらばら髪をふりさばいて立上った。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かくて島田なり、丸髷まるわげなり、よきに従ひて出来あがれば起ちて、まづ、湯具をまとふ、これを二布ふたのといひ脚布こしまきといひ女の言葉に湯もじといふ、但し湯巻ゆまきこんずべからず、湯巻は別に其ものあるなり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
腰に巻いている赤い二布ふたのが、まっ白な太腿に絡まっていた。半三郎は眼をすぼめた、腰は隠れているが、あらわな胸のふくらみがひどく眩しい。女は手をあげて叫んだ。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
相手は四十五六の、型の如き親仁おやぢで、二布ふたの一枚に、肩にヒヨイと手拭を掛けた、女房のお虎は、平次の顏を横目でチラリと見たつきり、せつせと、くづを選つて居ります。
慈善会場の客もあるじ愕然がくぜんとしてながむれば、渠はするすると帯を解きて、下〆したじめ押寛おしくつろげ、おくする色なく諸肌もろはだ脱ぎて、衆目のる処、二布ふたのを恥じず、十指のゆびさす処、乳房をおおわず、はだえは清き雪をつか
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はその高くなった処へ文筥を置き、それから着物の裾をからげて帯にはさんだ。下からは水色の縮緬ちりめん二布ふたのがあらわれたが、女はさらにその二布をからげ、左右の端をしっかりと結び合せた。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
神職 構わず引剥ひきはげ。裸体はだかのおかめだ。あか二布ふたの……湯具ゆぐは許せよ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女客はいま起きたところらしく、二布ふたの一枚で上半身はあらわだった。女中が声をかけたのも聞えなかったものか、吃驚びっくりして、美しい胸乳むなぢを隠したが、自分はこれから帰る、と声をひそめて云った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)