両膝りょうひざ)” の例文
旧字:兩膝
両膝りょうひざは前方に角度をなしてこごみ、寝間着の開き目から白い毛の逆立ったあわれな膝頭があらわにのぞき出し、そして彼はつぶやいた。
ことに近頃の冬は彼の身体からだに厳しくあたった。彼はやむをえず書斎に炬燵こたつを入れて、両膝りょうひざから腰のあたりにみ込むひえを防いだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
M君はささえている両膝りょうひざの上に、せた二本の手をダラリとさげ、あえぐように口を開けて、足下ばかり凝視していた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
イカバッドはそのような馬にはあつらえむきの男だった。あぶみが短かったので、両膝りょうひざくらの前輪にとどくほど高くあがった。
大きな円柱形の幹を両腕と両膝りょうひざとでできるだけしっかり抱き、手でどこかとび出たところをつかんで、素足の指を別のにかけながら、ジュピターは、一
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
肚を落着けて、心静かに待とうじゃないか!……何でえ、しっかりしろよ! (いきなり両手で両膝りょうひざを抱え込む)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
名犬シャーロックは少しも騒がず、何かの予感に緊張の面持おももちで、主人恒川警部の両膝りょうひざのあいだにうずくまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とそれから東屋氏は、そばの椅子へしずかに腰を下ろし、両膝りょうひざ両肘りょうひじをのせて指を前に組み合せ、ためらうように首をひねりながら、ボツリボツリと切り出した。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
今度は両膝りょうひざの間にはさんで、しっかり押え、赤くなったり、白くなったり、汗までかいて、なおも締めつづける。顔は、なんにも見ないように上を向いているのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
わずかに頭を振るかとみるまに両膝りょうひざを折って体をかがめるとひとしく横にころがってしまう。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ハツと顔を上げると、坊主は既に敷居を越えて、目前めさき土間どまに、両膝りょうひざを折つて居た。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
休之助は手綱をゆるめ、両膝りょうひざを緊めて、腰を浮かしながら馬をあおった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と余一ははかま両膝りょうひざに手をあらため、小ざかしげな眼をパチッとさせて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はただじっと両膝りょうひざをかかえ、時々窓の外へ目をやりながら
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
葉子は立てた長い両膝りょうひざを手でかかえながら、つぶやいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
両膝りょうひざを畳の上につく。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
またある時、彼が両膝りょうひざを寄せ目をほとんど閉じて、がっかりしたような姿ですわっていた時、娘は彼に言ってみた。
二三分して、細君は障子しょうじ硝子ガラスの所へ顔を寄せて、縁側に寝ている夫の姿をのぞいて見た。夫はどう云う了見りょうけん両膝りょうひざを曲げて海老えびのように窮屈になっている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
布製の胴着の腰を帯紐おびひもでしめ、半ズボンをなん枚も重ねてはいていたが、そのいちばん外側のはだぶだぶで、両側には一列に飾りボタンがつき、両膝りょうひざには房がついていた。
しかも、六部ろくぶはへいきな顔で、両膝りょうひざにほおづえをついて笑っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
防寨ぼうさいが攻撃さるる数時間前から、ずっと一定の姿勢を保ったままで、両手のてのひら両膝りょうひざにつき、絶壁の下をのぞき込むがように頭を前に差し出していた。
そうして、「さあどうぞ」を二三返繰返したが、自分は立ったまま「少し急ぎますから」と断って、岡田の手紙を渡した。お兼さんは上り口に両膝りょうひざを突いたなり封を切った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、もっとよく見さだめると、それは木が雷にうたれて、白木がむき出しになっているのだとわかった。突然、うなり声がきこえた。彼の歯はがたがた鳴り、両膝りょうひざを鞍にいやというほどうちつけた。
それから、彼の胸は落ちくぼみ、頭は震え動き、あたかも死に酔わされたかのようになって、両膝りょうひざの上に置かれた両手はズボンの布につめを立てはじめた。
マドレーヌがその恐ろしい重荷の下にほとんど腹いになって、二度両肱りょうひじ両膝りょうひざとを一つ所に持ってこようとしてだめだったのが、見て取られた。人々は叫んだ。
ルブラン氏は老人の胸を一撃してへやのまんなかにはね倒した。それから二度後ろを払って、他のふたりの襲撃者を打ち倒し、それをひとりずつ両膝りょうひざの下に押し伏せた。
彼はりっぱな歩兵銃を手に入れて、それを両膝りょうひざの間に持っていた。ガヴローシュはその時まで、たくさんのおもしろいことに気を取られて、その男には目もつけなかった。
両肱りょうひじは骨立ち、両膝りょうひざは皮膜があらわで、傷口からは肉が見えており、銀の荊棘いばらの冠をかぶり、金のくぎでつけられ、額には紅玉ルビーの血がしたたり、目には金剛石ダイヤの涙が宿っている。
彼は鉄格子に背を向け、やはり身動きもしないでいるマリユスのそばに、舗石しきいしの上に、すわるというよりもむしろ打ち倒れるように身を落とした。その頭は両膝りょうひざの間にたれた。出口はない。
石の上に両膝りょうひざをついて祈祷きとうするのであった。