七度ななたび)” の例文
枇杷びわの実は熟して百合ゆりの花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込うえごみの蔭には、七度ななたびも色を変えるという盛りの長い紫陽花あじさいの花さえ早やしおれてしまった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
伊勢は七度ななたびよいところ、いざ御案内者で客を招けば、おらあ熊野へも三度目みたびめじゃと、いわれてお供に早がわり、いそがしかりける世渡りなり。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世帯しょたいもこれで幾度いくたびか持ってはこわし持っては毀し、女房かかあ七度ななたび持って七度出したが、こんな酒はまだ呑まなかった。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
知らずや、貫一は再度の封をだに切らざりしを——三度みたび五度いつたび七度ななたび重ね重ねて百通に及ばんとも、貫一は断じてこの愚なる悔悟を聴かじとこころを決せるを。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人のあやまちは七度ななたびゆるして上げてくださいまし、ゆるし難いあやまちでも、許して上げるのが功徳くどくでございます、悪木あくぼくの梢にも情けの露は宿ると申しまして
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
関羽の出奔しゅっぽんは、あくまで義にそむいてはいない。彼は七度ななたびも暇を乞いに府門を訪れているが、予が避客牌ひかくはいをかけて門を閉じていたため、ついに書をのこして立ち去ったのだ。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「また兄さんに、だまされたような気が致します。七度ななたびの七十倍、というと、——」
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「俺は、あの福屋一家には七度ななたび生れ変ってもむくい切れないほどの怨みがある」
ボヘミヤのハッスまさに焼殺しょうさつせられんとするや大声よんでいわく「我死するのち千百のハッス起らん」と、一楠氏なんし死して慶応明治の維新に百千の楠公起れり、楠公実に七度ななたび人間に生れて国賊をほろぼせり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あさなゆふなに七度ななたび國見くにみ反身そりみ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
日のうちに七度ななたび八度やたび
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
小商人こあきんど風の一分別ありそうなのがその同伴つれらしい前垂掛まえだれかけに云うと、こちらでは法然天窓ほうねんあたまの隠居様が、七度ななたび捜して人を疑えじゃ、滅多な事は謂われんもので、のう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人のあやまちは七度ななたびこれを許せと、多数の私刑者の中に絶叫して歩いたのは、竜之助の言う通り、安房の国から出た弁信という口の達者な、目の見えない小坊主であった。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
孔明こうめい兵を祁山きざんいだす事七度ななたびなり。匹婦ひっぷ七現七退しちげんしちたい何ぞ改めて怪しむに及ばんや。唯その身の事よりして人にるいおよぼしために後生ごしょうさわりとなる事なくんばよし。皆時の運なり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
神職 何さ、笛、太鼓ではやしながら、両手を引張ひっぱり、ぐるぐる廻しに、七度ななたびまで引廻して突放せば、裸体らたいおんなだ、仰向けに寝はせまい。目ともろともに、手も足もまい踊ろう。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)