その夜のこと、昼さえも静かな岩倉谷の夜もいたく更け渡る頃、たった一人の白衣びゃくえの行者が、覆面をして両刀を落し差し、杖を携えて、飄々浪々ひょうひょうろうろうとしてこの岩倉谷に入り込みました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)