団十郎はその年春興行の折病にかかり一時は危篤の噂さへありしほどなればこの度菊五郎との顔合大芝居かおあわせおおしばいといふにぞ景気はふたを明けぬ中より素破すばらしきものなりけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)