猪之松ゐのまつ)” の例文
まだありますよ、下男の猪之松ゐのまつ。この男ばかりは、無口で、頑固で、人付きが惡くて、誰にも嫌はれるといふ、不思議な男で。
今朝起きて、下男の猪之松ゐのまつが雨戸を開けると、庭先に香之助どんが、血だらけになつて、氣をうしなつて倒れてゐたんださうです。
ところが、お小夜の方にも、軍師がついて居ましたよ、やくざの猪之松ゐのまつといふ男で、——万兩さんの半次郎の心中話は、皆んなお前の心底を試して見る狂言だ。
猪之松ゐのまつが指さした方を見ると、お勝手から裏木戸へ出る途中に、二間四方ほどの低い物置があります。
振り向くと、それは下男の猪之松ゐのまつでした。庭木の手入れで、少しほこりつぽくなつてゐますが、この男もなか/\良い男で、四角なたくましい顏にも、昔の美少年の面影が匂ふのでした。
猪之松が持つて來た灰、それを猪之松ゐのまつの記憶をたどつて、いつぞやの晩と同じやうにくと、平次は牡丹刷毛を四本の指で押へて、縁側の上へ、適當な間隔を置いて突いて行くのです。