一つは矢川文内の二女おつるさんの話で、一つは保さんの話である。文内には三子二女があった。長男俊平しゅんぺいは宗家をいで、その子蕃平しげへいさんが今浅草向柳原町むこうやなぎはらちょうに住しているそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)