始めて六尺横町ろくしゃくよこちょうの貸本屋から昔のままなる木版刷もくはんずりの『八犬伝はっけんでん』を借りて読んだ当時、子供心の私には何ともいえない神秘の趣を示した氷川ひかわの流れと大塚の森も取払われるに間もあるまい。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)