雛段ひなだん)” の例文
何しろ、久し振りで此方こちらの師匠が雛段ひなだんへ据ったのが、あれが、こうっと——四日前の大さらえでげしたから、未だ耳の底に残っていやすよ。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この舞台の正面——桜の山の書割りを背にいたしまして、もえ立ったような、紅い毛氈もうせんを敷きつめた、雛段ひなだんがございます。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
さうして二十ねんむかし父母ふぼが、んだいもとためかざつた、あか雛段ひなだん五人囃ごにんばやしと、模樣もやううつくしい干菓子ひぐわしと、それからあまやうから白酒しろざけおもした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雛段ひなだんをくつがえす勇気がないのか。君たちにとって、おいしくもないものは、きっぱり拒否してもいいのではあるまいか。変らなければならないのだ。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
妹山の家には古風な大きい雛段ひなだんが飾られて、若い美しい姫が腰元どもと一緒にさびしくその雛にかしずいている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何を訊いてもらちがあかず、ただ今朝は自分で雛段ひなだんを畳んで雛の道具を土蔵へ運ぶはずだったが、気分が悪かったのでしてしまって、下女のお文に頼んだところ
雛段ひなだんはまえの半分にも足りないほど小さく、雛の数も少なかった。七重は段の上の雪洞ぼんぼりあかりをいれながら、「たいていな雛や道具はめいのたみにやってしまったのだ」
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もしくは四段の雛段ひなだん式に場席がなっていて、一桝くぎりはおなじだが、これは舞台へ斜めにむかう工合ぐあいで、おなじ竪に流れていながら横にならんでいる感じでならび
数千人を容るる大テントの中央、円形の演芸場、それを取り巻いて雛段ひなだんの観客席、夜は石油の大カンテラを無数に点じて昼をあざむく。黒ん坊の楽師十余名の奏楽で実演。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
どこからか古い雛段ひなだんを出して来て順序よく並べ、しばらくするとまた並べ替えるのでした。大釜おおがまを古道具屋から買って来て、書生に水を一ぱい張らせます。夕方植木に水をやるのは私の役でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そうして二十年も昔に父母が、死んだいもとのために飾った、赤い雛段ひなだん五人囃ごにんばやしと、模様の美くしい干菓子と、それから甘いようでからい白酒を思い出した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひとくちに云うと、屏風びょうぶで三方を囲まれた雛段ひなだんのような地形で、石を組みあげた台地が斜面に段をなしており、若木のひのきや杉の疎林のあいだに、住民たちの家がちらばって見えた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女が長いきぬすそさばいているようにも受取られるが、ただの女のそれとしては、あまりに仰山ぎょうさんである。雛段ひなだんをあるく、内裏雛だいりびなはかまひだれる音とでも形容したらよかろうと思った。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)