雑巾ざふきん)” の例文
旧字:雜巾
すると不思議な事に、昨日きのふまであんなに気にかかつてゐた巻雲まきぐもも、巻積雲も、雑巾ざふきんで拭き取つたやうに痕形あとかたも無くなつてゐた。
庫裡くりから本堂に通ずる長い廊下は、風雨にさらされて、昔かれが老僧に叱られながら雑巾ざふきんがけをしたところとも思へなかつた。中庭の樹木も唯繁りに繁つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
元気の無ささう顔色かほいろをして草履を引きずり乍ら帰つて来た貢さんは、裏口うらぐちはいつて、むしつた、踏むとみしみしと云ふ板ので、雑巾ざふきんしぼつて土埃つちぼこりの着いた足を拭いた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
小生の古つゞらにたくはふる処は僅にスコツチの背広が一りやう、其れも九年前にこしらへたれば窮屈なることおびたゞしく、居敷ゐしきのあたり雑巾ざふきんの如くにさゝれて、白昼には市中をあるけぬ代物しろもの
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
一手六時間といふまるで乾いた雑巾ざふきんから血を絞り出すやうな、父の苦しい長考を見て、到頭対局場に居たたまれず、隣りの部屋へ逃げ出した挙句、病気になつてしまつたといふ玉江に
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
乞食こじきしきりにれいひながら雑巾ざふきんで足をぬぐひ、う/\の事でいたすわつて、乞
私は食卓テーブルの布の上に爪の延びた手を置いて、あの前垂掛で雑巾ざふきんを手にしたやうな無智な下婢達と犬とから、斯うした自分を先づ教育されたことを考へて、思はず微笑ほゝゑまずには居られなかつた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
手巾ハンカチ雑巾ざふきんのやうに黒かつた。博士はそれで脂ぎつた顔を撫でまはした。