雁来紅はげいとう)” の例文
旧字:雁來紅
寛子も花が好きで、一寸した小銭が出来ると、花屋へ出掛けては半日も話しこんで、見事な雁来紅はげいとうを何本もせしめて来ることがある。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
はっきりとはわからないが、心をひそませてじっくりと記憶をたどると、雁来紅はげいとうの家へ行く道筋が、おぼろげに心に浮んでくる。
獅子頭などと言はれる、豪勢な花の形からさへ愛嬌をもらはないではいられなかつた。雁来紅はげいとうだつてさうであつた。
雑草雑語 (新字旧仮名) / 河井寛次郎(著)
裏の百姓家も植木師をかねていたので、おばあさんの小屋こいえの台所の方も、雁来紅はげいとう天竺葵あおい鳳仙花ほうせんか矢車草やぐるまそうなどが低い垣根越しに見えて、鶏の高くときをつくるのがきこえた。
狭い庭にはゆうべの雨のあとが乾かないで、白と薄むらさきと柿色とをまぜえにした朝顔ふた鉢と、まだ葉の伸びない雁来紅はげいとうの一と鉢とが、つい鼻さきに生き生きと美しく湿れていた。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
床の間に、雁来紅はげいとうを活けたのが、暗く見えて、掛軸に白の野菊……蝶が一羽。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おとといの野分のわきのなごりか空は曇って居る。十本ばかり並んだ雞頭けいとうは風の害を受けたけれど今は起き直って真赤な頭を揃えて居る。一本の雁来紅はげいとうは美しき葉を出して白い干し衣に映って居る。
飯待つ間 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
血——と見えたのは、そこらにカッと陽を受けている雁来紅はげいとうだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
雁来紅はげいとうとまれば雁来紅はげいとううつる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お静かでおうらやましいわ。……いつだって雁来紅はげいとうは真っ紅だし、陽が照っているし、日暦カレンダーは、いつも、九日の日曜日だし……。
莞爾にこりとその時、女が笑った唇が、縹色はなだいろに真青に見えて、目の前へ——あの近頃の友染向ゆうぜんむきにはありましょう、雁来紅はげいとうを肩から染めた——釣り下げた長襦袢ながじゅばんの、宙にふらふらとかかった、その真中へ
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓のそばに、燃えるような雁来紅はげいとうがあるので、秋の中ごろの午後の風景だということがわかる。