門閥もんばつ)” の例文
「二十五歳で、聖光院の門跡とは、破格なことだ。……やはりびとがよいか、門閥もんばつがなくては、出世がおそい」などと羨望せんぼうしあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第二門閥もんばつできまる場合もある。第三には芸能できまる場合もある。最後に金できまる場合もある。しかしてこれはもっとも多い。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学校の規則もとより門閥もんばつ貴賤きせんを問わずと、表向おもてむきの名にとなうるのみならず事実にこの趣意をつらねき、設立のその日より釐毫りごうすところなくして
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
門閥もんばつ外の中村菊之丞一座を招き、これに、座付の若手を加えただけで、思い切った興行ぶりを見せようと試みたわけであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
若くて御小姓組御番頭に出世した丹之丞は、門閥もんばつらちを越えて、大名にも若年寄にもなれるような野望を持っていたのです。
象次郎曰ふ、復古はかたきに非ず、然れども門地もんちはいし、門閥もんばつめ、けんぐることはうなきに非ざれば、則ち不可なりと。二人の本領自らあらはる。
一国の門閥もんばつ、先代があまねく徳をいた上に、経済の道よろしきを得たので、今も内福の聞えの高い、子爵千破矢ちはや家の当主、すなわち若君滝太郎たきたろうである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何もそれが財力だの門閥もんばつだのといふ俗世の特権ばかりを目やすにしたものでないことは、もともとこの病院の帯びてゐる宗教的な性質から見て明らかでしたが
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
野心や利害の相剋から生れることもあり、個人がつらなっている家族や門閥もんばつの関係から生ずることもある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
平生門閥もんばつだとか身分だとか云う愚にも付かないものを、自慢にして、平民だとか町人だとか云って、軽蔑けいべつしている癖に、相手が金があると、平民だろうが、成金だろうが
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
門閥もんばつの為め、自我の為めに、毒薬と匕首ひしゆとを用ゐることをはばからない Cesareチエザレ Borgiaボルジア を、君主の道徳の典型としたのなんぞを、真面目に受け取るわけには行かない。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それで、彼の父親は、ロザマンドとセント・ジョンの結婚を妨害しないやうに見えた。明らかに、オリヴァ氏は、その若い牧師の血統や門閥もんばつや聖職は、無資産に對する十分のつぐなひと考へた。
華族と云い貴顕きけんと云い豪商と云うものは門閥もんばつの油、権勢けんせいの油、黄白こうはくの油をもって一世をさかしまに廻転せんと欲するものである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若くて御小姓組御番頭に出世した丹之丞は、門閥もんばつらちを越えて、大名にも若年寄にもなれるやうな野望を持つて居たのです。
かつその仲間の教育なり年齢なり、また門閥もんばつなり、おおよそ一様同等にして抜群ばつぐん巨魁きょかいなきがために、衆力を中心に集めて方向を一にするを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
完全に自分たちの門閥もんばつで朝廷の実権を占めようとする新任の関白藤原基通ふじわらのもとみち鷹司たかつかさ右大臣などの意志がかなり微妙に作用しているものと見て大差ない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要はただ、君が家系門閥もんばつの誇の上に、一部の間隙を生ぜしめて、氏素性、かくのごとき早瀬の前に幾分の譲歩をなさしめん希望に過ぎなかったに、思わざりき、久能山上の事あらんとは。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家柄や門閥もんばつの垣に閉ぢこめられて、大名の子は大名、町人の子は町人、乞食の子は乞食、其處から一歩も踏出すことは出來なかつた世の中です。
すでに学校に心をすれば、門閥もんばつの念も同時に断絶してその痕跡こんせきを見るべからず。市学校は、あたかも門閥の念慮ねんりょ測量そくりょうする試験器というもなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
平家の門閥もんばつが、民をかえりみるいとまもなく、民の衣食を奪って、享楽の油に燃し、自己の栄耀えようにのみ汲々きゅうきゅうとしている実相さまが、ここに立てば、眼にもわかる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧来の門閥もんばつは多いし、官吏士大夫の候補者はうようよしているから、何の背景もない新人を容れる余地は少ない。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古来から顕職けんしょくの栄位にぬきんでられて、却ってために、家を亡ぼし、身を害した者が史上にも多い。そのもとを思うに、みな、門閥もんばつと内室のわずらいから起っておる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)