遊廓ゆうかく)” の例文
兵馬は、ふと、こんなことを思い出して、いて袖を振り放そうとしないうちに、もう遊廓ゆうかくの一町ほど手前まで来てしまいました。
二時がカンバンだって云っても、遊廓ゆうかくがえりの客がたてこむと、夜明けまでも知らん顔をして主人はのれんを引っこめようともしない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一階のはずれは八百屋が三辻の角になり、遊廓ゆうかく這入はいる口であった。造花屋は坂の上にあたるので、穴蔵が仕組れ、八百屋が使用していた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この住田と云う所は温泉のある町で城下から汽車だと十分ばかり、歩いて三十分で行かれる、料理屋も温泉宿も、公園もある上に遊廓ゆうかくがある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこから小川を一つ隔てた田圃たんぼなかにある遊廓ゆうかくの白いペンキ塗の二階や三階の建物を取捲いていた林の木葉このはも、すっかり落尽くしてしまった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
岩島なんてのは(と直治の学友の伯爵のお名前を挙げて)あんなのは、まったく、新宿の遊廓ゆうかくの客引き番頭よりも、もっとげびてる感じじゃねえか。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
長崎を立って時津ときつに向かう途中でロシア人専門の遊廓ゆうかくだというところを通ったら二階から女どもが見下ろして何かしら分らないことを云って呼びかけた。
二つの正月 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大越おおごえから通う老訓導は、酒でものむと洒脱しゃだつな口ぶりで、そこから近いその遊廓ゆうかくの話をして聞かせることがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ところが北隣の大島諸島はこれに反して、いわゆる遊廓ゆうかくはどこにも無くて、遊女のみはどの島にもいた。ズリをこの方面ではゾレまたはドレと呼んでいる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜になると火のいた町の大通りを、自転車でやって来た村の青年達が、大勢連れで遊廓ゆうかくの方へ乗ってゆく。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
吉原遊廓ゆうかくの近くを除いて、震災ぜん東京の町中まちじゅうで夜半過ぎて灯を消さない飲食店は、蕎麦そば屋より外はなかった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
羅は十四になって、良くない人に誘われて遊廓ゆうかくへ遊びにいくようになった。ちょうどその時金陵から来ている娼婦しょうふがあって、それが郡の中に家を借りて住んでいた。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
外の団員達も、それぞれ木賃宿きちんやどとか、遊廓ゆうかくとか泊り場所が分っていて、残らずアリバイが成立した。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしておたまのことも、——籠屋かごやのおたまは若くて遊廓ゆうかくへ身を売り、その後もみもちが悪く、親類じゅうに迷惑をかけたが、いまは行方知れずだということであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浅草の観音さまにも遠くはないし、吉原遊廓ゆうかくは目と鼻のさきだし、おとりさまはここが本家である。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
最初に見える人家は旭町あさひまち遊廓ゆうかくである。どの家にも二階の欄干に赤い布団が掛けてある。こんな日に干すのでもあるまい。毎日降るのだから、こうしてさらすのであろう。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
橋本には遊廓ゆうかくがござりまして渡し船はちょうどその遊廓のある岸辺きしべに着きますので
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その政党に箕村数人みのむらかずとという有名な清節の長老があって、たびたび大臣も勤めた人でしたが、どういう魔が射したものか、この長老が大阪の松島という遊廓ゆうかくの移転事件に連座して、疑獄をき起し
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
停車場ステエションから、震えながらくるまでくる途中、ついこの近まわりに、冷たい音して、川が流れて、橋がかかって、両側に遊廓ゆうかくらしい家が並んで、茶めしの赤い行燈あんどんもふわりと目の前にちらつくのに——ああ
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巧みに千往遊廓ゆうかくへ現われたとも考えられた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遊廓ゆうかくですか?」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時ちゃんが、私に自転車の乗りかたを教えてくれると云うので、掃除が済むと、店の自転車を借りて、遊廓ゆうかくの前の広い道へ出て行った。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
遊廓ゆうかくで鳴らす太鼓たいこが手に取るようにきこえる。月が温泉の山のうしろからのっと顔を出した。往来はあかるい。すると、しもの方から人声が聞えだした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれから間もなく松島遊廓ゆうかくの移転問題で、収賄事件が起こったでしょう。そしてあの男は、ピストルで死んだでしょう。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして景気というものの前兆も、現証も、まず花柳界に現われたものだから、京都の遊廓ゆうかくの繁昌というものが、前例を越えているというのもさもあるべき事です。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
オブシーン・ピクチュアを見せる遊廓ゆうかくはどこそこにあるとか、東京にける第一流の賭場とばは、どこそこの外人まちにあるとか、そのほか、私達の好奇心を満足させるような
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「中田の遊廓ゆうかくに行ったなんて、うそだそうですよ。小説家なんて、ひどいことを書くもんですね」
『田舎教師』について (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夏中洲崎すさき遊廓ゆうかくに、燈籠とうろうの催しのあった時分じぶん、夜おそく舟でかよった景色をも、自分は一生忘れまい。とまのかげから漏れる鈍い火影ほかげが、酒にって喧嘩けんかしている裸体はだかの船頭を照す。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しまいには紫川の東の川口で、旭町あさひまちという遊廓ゆうかくの裏手になっている、お台場のあとが涼むには一番好いと極めて、材木の積んであるのに腰を掛けて、夕凪の蒸暑い盛を過すことにした。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
千葉道場のおきては厳格だが、みんな道場の外では適当にやっている。酒も飲むし、美味うまい物も食べるし、遊廓ゆうかくなどへもゆくようだ。しかも道場では代師範をし、大名諸家へ出稽古をする。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
神戸の市内電車の中で、私が車掌に向って、新川へ行くのだと云ったら、車掌は新川は遊廓ゆうかくのある方かと問い返した。私がK氏のいる処だと云ったら、そんならはじめからそう云えばいいと云った。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
遊廓ゆうかくだ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
十二時にもなるとそろって引き揚げ、月に一度もあるかなしの泊りは、町はずれの遊廓ゆうかくへしけ込む時に限るのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
山門のなかに遊廓ゆうかくがあるなんて、前代未聞の現象だ。ちょっとはいってみたいが、また狸から会議の時にやられるかも知れないから、やめて素通りにした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相馬泰三の新宿遊廓ゆうかくの物語り面白し。細君はとり子さんと云うのだそうだが、文章では美人らしい。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
太平の武士町人が声色せいしょくの快楽を追究してまざりし一時代のだいなる慾情はたちま遊廓ゆうかくと劇場とを完備せしめ、更に進んでこれを材料となせる文学音曲おんぎょく絵画等の特殊なる諸美術を作出つくりいだしぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たしか潮来いたこあたりの遊廓ゆうかくおんなたちの代名詞でしてね、鹿島香取かしまかとりなんかへ参詣さんけいするときに、ゆきにしべえか帰りにしべえかっていうので、合わせて八兵衛ということになったんだそうですよ
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仙台の遊廓ゆうかくで内所のゆたかなある妓楼ぎろうの娘と正式に結婚してから、すでに久しい年月を経ていたが、猪野が寿々廼家の分けの芸者であった竹寿々の面倒を見ることになり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たしか潮来いたこあたりの遊廓ゆうかくおんなたちの代名詞でしてね、鹿島香取かしまかとりなんかへ参詣さんけいするときに、ゆきにしべえか帰りにしべえかっていうので、合わせて八兵衛ということになったんだそうですよ
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たまには傘をさして、橋を渡って、山裾やますそ遊廓ゆうかくの方へ足を入れなどした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)