象徴しょうちょう)” の例文
願望を含めて、博雄ひろおと名付ける。偏狭者へんきょうしゃによって悩まされたことの記念と、伊藤博文を景慕けいぼする気もちを象徴しょうちょうしたものであった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「あの櫟林くぬぎばやしの冬景色は、たしかにこの塾の一つの象徴しょうちょうですね。ことにこんな朝は。——まるはだかで、澄んで、あたたかくて——」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
同時に、このときを記念して、彼は、黒田家を象徴しょうちょうする軍旗と馬簾ばれんなどを新たに制定した。旗幟はたのぼりの印には、永楽通宝えいらくつうほうを黒地に白く抜き出した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々の生命を阻害そがいする否定的精神の象徴しょうちょうである。保吉はこの物売りの態度に、今日きょうも——と言うよりもむしろ今日はじっとしてはいられぬ苛立いらだたしさを感じた。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なにかの象徴しょうちょうのような身ぶりをし、しとやかといってもほどのある、ビロードのような猫撫声でものをいうので、経験の浅い日本人の画描きは、それで一ころにやられてしまう。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
オリムピックのなかでも、ブリュウリボンと呼ばれる、壮麗そうれいなレガッタのなかで、ぼくには、負けてあおいだ、南カルホルニアの無為むいにして青い空ほど、象徴しょうちょう的に思われたものはありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
主人の頭にあるものは、つるおかの社頭において、頼朝よりともの面前で舞を舞ったあの静とは限らない。それはこの家の遠い先祖が生きていた昔、———なつかしい古代を象徴しょうちょうする、ある高貴の女性である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
感情の表現にはむしろ反語か、遠廻しの象徴しょうちょうの言葉を使った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの秀麗しゅうれいなる神州美しんしゅうび象徴しょうちょう富士ふじ裾野すそのに生まれながら、どうしておまえはそんなきたない下司根性げすこんじょうをもっているんだろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出迎でむかえながら、それとなくその顔色をうかがったが、友愛塾の精神を象徴しょうちょうするかのような、その平和であたたかな眼には、微塵みじんのくもりもなく、そのゆったりとしたものごしには
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この事実は当時の感傷的な僕には妙に象徴しょうちょうらしい気のするものだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
聞き入る光秀の耳はその眸とともに、彼の聡明と観察の叡智えいち象徴しょうちょうしていた。作左の一語一語にうなずきを与えながら
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの眼には、その雀が孤独こどく象徴しょうちょうのようにも、運命の静観者のようにもうつった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
富士は千古せんこのすがた、男の子の清いたましいのすがた、大和撫子やまとなでしこ乙女おとめのすがた。——日本を象徴しょうちょうした天地に一つのほこり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い日もようやく暮れ、若葉の木蔭に、かがりの火色が揺れ始めていた。——勝家の胸奥きょうおう象徴しょうちょうするもののように。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天蓋を払ったその人物、漆黒しっこくの髪を紫のひもでくくった切下きりさげ、月のせいもあろうか色の白さは玲瓏れいろうといいたいくらい、それでいて眉から鼻すじはりんとした気性の象徴しょうちょう
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、突如、一陣の狂風が吹いて、旗の数も多いのに、わけて泊軍の象徴しょうちょうとする大将旗がその竿首さおくびのところからポキと折れてしまい。一同は、はっと顔色をかえた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
露地の口元が人でまっているのをかき分けて、やっとそこを通りぬけ、お粂の家の前へ立ったのは、柘榴ざくろの皮みたいな頬ッぺたの色に春を象徴しょうちょうしたお人よしの率八で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予言よげんの文字にいつけられていたひとみをあげてふと有明ありあけの空をふりあおぐと、おお希望の象徴しょうちょう! 熱血ねっけつのかがやき! らんらんたる日輪にちりん半身はんしんが、白馬金鞍はくばきんあん若武者わかむしゃのように
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっともそれに備えて、ここの中軍、信玄のいる所でも、今や例の甲軍最大な象徴しょうちょうとしている孫子の旗も法性ほっしょうのぼりも、また諏訪明神の神号旗も、花菱はなびしの紋旗も、すべて秘してしまって
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)