つつ)” の例文
マサニ鬼雄トナツテ、異日兵ヲ以テ吾ガ国ニ臨ムモノアラバ、神風トナツテ之ヲふせグベシト。家人つつシンデ、ソノ言ニしたがフ。…………
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ましてつつましいその時代の女たちの困りようは察しられる。岸近い船はわたりをかけて、尾上河岸おのえがしあたりのいきな家にたのむが、河心かわなかのはそうはいかない。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「見上げた方で御座います、朝晩念仏三昧で、つつしつつしんで居ります。一足も外へ出ることではございません」
まあ一種の語呂合せみたいなものであり、それを一概に「飜訳者は裏切り者」と心得ておそつつしんだのでは、この名句の発案者の折角の笑いが消し飛んでしまう。
翻訳のむずかしさ (新字新仮名) / 神西清(著)
やがてそのうちの一にんが玉のような水を水晶のさかずきんで来て、つつしんで眼の前に差し出したから
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
この運命から僕を救い得る人があるなら、僕はつつしんでおしえを奉じます。その人は僕の救主すくいぬしです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
嫌疑を憚らず左様そういうけで私は若い時から婦人に対して仮初かりそめにも無礼はしない。仮令たとい酒によってもつつしむ所はきっと謹しみ、女のいやがるような禁句を口外したことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「何を遊ばされます、そんな野蛮な、しもじもの者のなさるようなことはつつしんでください」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何とかしておつつしみくださらないでしょうか、もはや他の房の方がたは、わたくしが通りますると指さして、耳打ちをなされ、わたくしは面伏おもふせてとおることには慣れてまいりましたものの
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
つつしみ深く——が不可抗的な威圧でそれをとどめ、貧乏揺ぎもさせることではありません。
姉のたき子はせて眼の大きい女である。妹の貞子は色白なつつましやかな人柄である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「まだいたのか?」悟浄はつつしんで五十日待った旨を答えた。「五十日?」と先生は、例の夢を見るようなトロリとした眼を悟浄に注いだが、じっとそのままひと時ほど黙っていた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
顔をあからめ、しばらく孔子の前に突立つったったまま何か考えている様子だったが、急に雞と豚とをほうり出し、頭をれて、「つつしんで教を受けん。」と降参した。単に言葉に窮したためではない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
つつしみ慎しんで何や彼と世話をして居ります。