薄汚うすぎた)” の例文
薄汚うすぎたない法衣ころもを着て、背には袋へ入れた琵琶を頭高かしらだかに背負っているから琵琶法師でありましょう。莚張むしろばりの中へつえを突き入れると
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古い麦藁帽むぎわらぼうの後ろへ、日除ひよけのためにくくり付けた薄汚うすぎたないハンケチをひらひらさせながら、井戸のある裏手の方へまわって行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
シカモ女に縁のなさそうな薄汚うすぎたないつらをした男が沼南夫人の若いつばめになろうとは夢にも思わなかったから、夫人の芳ばしくない噂を薄々小耳こみみに入れてもYなぞはテンから問題としなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
けれども今は薄汚うすぎたない亜鉛葺トタンぶきのバラツクのほかに何も芝居小屋らしいものは見えなかつた。もつとも僕は両国の鉄橋に愛惜あいじやくを持つてゐないやうにこの煉瓦建れんぐわだての芝居小屋にも格別の愛惜を持つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いやに薄汚うすぎたねえ坊主だ、どうしてこんなところへ入って来やがったろう、一人で入って来たにしてはあんまり勘が良過ぎらあ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれへやすみたゝんであつた薄汚うすぎたない蒲團ふとんいて、其中そのなかもぐんだ。すると先刻さつきからのつかれで、なにかんがへるひまもないうちに、ふかねむりにちて仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助は表へ出て薄汚うすぎたない編輯局の窓を見上みあげながら、あしを運ぶ前に、一応電話で聞きあはすべき筈だつたと思つた。先達ての手紙は、果して平岡の手に渡つたかどうか、それさへうたがはしくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)