艶子つやこ)” の例文
台所には蕗子の妹で十三か四になる艶子つやこが、近所の内儀おかみさんたち二三人に囲まれて、畳に打伏したまま潸々さめざめと泣いていました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
この先に入れといた月川艶子つやこさんのお手紙を読んでちょうだい。文句をソックリその通りに写して置きましたから。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いろいろ考えたうちに一番感じたのは、自分がこんな泥だらけの服を着て、真暗なあなのなかにしゃがんでるところを、艶子つやこさんと澄江すみえさんに見せたらばと云う問題であった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やっこさん又やっているな」会計係の野田幸吉のだこうきちとタイピストの瀬川艶子つやことが、席を並べてヒソヒソ話し合っているのを見ると、北川は意地の悪い微笑ほほえみを浮べて、その方へ近づいて行った。
早子はやこと云ふのは顏は痩せてゐたけれども目をつぶつたりすると印象の強い暗い蔭が漂つた。そうして口豆くちまめな女だつた。艶子つやこと云ふのがゐた。顏の輪廓の貞奴に似た高貴な美しさを持つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
はちす花片はなびらの形したる、石の面に、艶子つやこ之墓と彫りたるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の魂が遠慮なく火の中をけ廻って、艶子つやこさんになったり、澄江すみえさんになったり、親爺おやじになったり、金さんになったり、——被布ひふやら、廂髪ひさしがみやら、赤毛布あかげっとやら、うなごえやら、揚饅頭あげまんじゅうやら
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)