繊細かぼそ)” の例文
くちばしで掻き乱したものか細かい胸毛が立つて居り、泊り木に巻きついてゐる繊細かぼそい足先には有りつ丈けの力が傷々いた/\しく示されてゐる。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
ところが一人の舁夫が追掛おっかけて参りますので、お町は女の繊細かぼそき足にて山へ登るはかないませぬから、転げるように谷へりました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
赤茶気た髪をくくり下げに致しておりますが、老人が作りました畠のへりに跼みまして、繊細かぼそい手で色んなものを植え付ております。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尋常な円錐形の峯に対し、やや繊細かぼそく鋭い峯が配置よく並び立っている。この方は背丈けは他より抽んでているが翁には女性的に感じられる。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「はあ、ひどい病気で……」私は、そういって、すぐ心の中ではあの繊細かぼそい彼女の美しく病み疲れた容姿すがたを思い描きながら
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
憎悪に燃えた眼と、嫉妬にった繊細かぼそい腕とで、幹もとおれと打込んだ藁人形の首から、ダラダラと血が流れ出しました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それにまた撫肩なでがたで頸が長いのを人一倍衣紋をつくった着物のきこなしで、いかにもしなやかに、繊細かぼそく見える身体からだつき。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大急ぎで手繰たぐって井戸の中からヒョイと首を出すと、光子は石畳の上へねじ伏せられて、その繊細かぼそい首筋へ、血に飢えたナイフが臨んで居ります。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あの完備した大組織の力でも、たった一人の繊細かぼそい青眼鏡の怪物を探し出すことが出来ないのか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は自分の足に気がついた……堅く飛出した「つとわら」の肉に気がついた……怒ったような青筋に気がついた……彼の二の腕のあたりはまだまだ繊細かぼそい、生白いもので
足袋 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は元来動物好きで、就中なかんずく犬は大好だから、近所の犬は大抵馴染なじみだ。けれども、此様こんな繊細かぼそ可愛いたいげな声で啼くのは一疋も無い筈だから、不思議に思って、そっと夜着の中から首を出すと
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
で、彼は子供の頭を押え、ももでその繊細かぼそ腰部こしを締めつけた——子供は両手を男の膝の上においていたが——そのとき男は、或る憎悪にくしみが、われにもあらず、むらむらっと心中に沸きかえった。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
木組などの繊細かぼそいその家は、まだ木香きがのとれないくらいの新建しんだちであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
焼岳という嫉みぶかい女性の、待女が繊細かぼそい手を出して、河原に立ちながら、旅客を冥府の谷底に招き寄せているのではあるまいかと思われた、崖の高い、曲りくねった路には、長い蔓をわせて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
髪の毛の薄い、色の蒼黒い、眼の嶮しい、頤の尖った、見るから神経質らしい男で、手足は職人に不似合いなくらいに繊細かぼそくみえた。紺の匂いの新しい印半※をきて、彼は行儀よくかしこまっていた。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頭をゆるゆると左右に振りながら軽いため息を一つしたが、やがて又、静かに眼を開きながら、今までよりも一層つめたい、繊細かぼそい声を出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「さようなら!」と、眼を瞑るようにしながら猫のような繊細かぼそ仮声つくりごえをして何度も繰り返しながら帰っていった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あべこべに繊細かぼそい自分の方が身動きもならないやうに押へつけられはしまいかとも思はれる。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
実は是れ/\/\/\であると喋ったら旨いもんでうしたら富五郎はくり/\坊主にして助けてもし、物置へほうり込んでもいが、愈々いよ/\一角と決ったらお隅さん繊細かぼそい女
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お浜は天井をまでもかたきのように見上げて、見下ろすと、痛々しい繃帯ほうたいが泣き疲れた郁太郎の繊細かぼそい首筋を締めつけるもののように見えて、わけもなくかわいそうでかわいそうでたまりません。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
髪の毛の薄い、色の蒼黒い、眼のけわしい、あごとがった、見るから神経質らしい男で、手足は職人に不似合いなくらいに繊細かぼそくみえた。紺の匂いの新しい印半纏をきて、彼は行儀よくかしこまっていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
柳の下にしなやかに繊細かぼそく涼し気な絹糸草の鉢を売る露店。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして内側をふっと見ると、向うの窓の下のところに、うれしや、彼女が繊細かぼそい手でまだ硝子戸に指を押しあてたまま私の方を見て、黙ってにっこりとしている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それから小さな咳を一つすると繊細かぼそい……けれどもおごそかな口調で云った。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
う云う災難に出会ったかと思いますと、わたしが彼を牢へ遣った様なものでございます、うして此の寒いのに牢の中へ這入りましては貴方彼は助かる気遣いはございません、繊細かぼそい身体ですから
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところどころ紅味あかみの入った羽二重しぼりの襦袢じゅばん袖口そでぐちからまる白い繊細かぼそい腕を差し伸べて左の手に巻紙を持ち、右の手に筆を持っているのが、いやしい稼業かぎょうの女でありながら、何となく古風の女めいて
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)