紅葉山もみじやま)” の例文
それというのは、西裏御門の内にある大きなえんじゅの木が、紅葉山もみじやま御文庫の書庫を建てる都合で、ほかへ移し植えられることになったことである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸の大城たいじょう炎上のとき幼君を守護して紅葉山もみじやま立退たちのき、周囲に枯草の繁りたるを見て非常の最中不用心ぶようじんなりとて、みずから腰の一刀をぬいてその草を切払きりはら
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
紅葉山人というは青年時代に芝にすまっていたちなみから紅葉山もみじやまの人という意味で命じたので、格別ひねくらない処に洒落の風が現われている。第二に筆跡である。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
こんもりとした紅葉山もみじやまをまともに見てから、その眼を右へ引いて行って、これが西丸……その西丸と、紅葉山との間を、七兵衛は暗いところから睨めているらしい。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父が流行はやりの長い刀をぶっこんでいた時分、明渡あけわたされた江戸城の守備についていた時、苑内紅葉山もみじやまに配置してある鹿の置物をねらうちにしたものもあるとかいうほどだから
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
紅葉山もみじやまの一角をめぐって、ここまでつづいた長い道灌堀どうかんぼり、その水草のなかを半分はもぐって、本丸にたどりついた駿河太郎は、当代の将軍、徳川家光とくがわいえみつを討って取ろうという、おそろしい大望にもえて
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
紅葉山もみじやまから西北に、丘となり芝生しばふとなり、山となり渓谷となる所は、有名な吹上の大園で、林間堂濤どうとうの響きをなすものは
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なあに——江戸のお城の、御本丸の紅葉山もみじやままでも拝んで来たこの七兵衛だ、奥州仙台であろうが、陸奥守であろうが、げて拝見の許されねえというおきてはあるめえ。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本丸のいらかは、夜がすみに汗をかいて、おぼろな春の夜更けた月が、紅葉山もみじやまの森にぼんやりとありやなしやの光です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に一刻の余も費やしたと見えて、ぼやっとした朧月おぼろづきも、いつか江戸城の西の方——紅葉山もみじやまの襟筋へ隠れかかって、どこともない有明の色が、四林の梢に仰がれて来ました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ健在かと思うような老人だの、紅葉山もみじやまへご奉公して四十年にもなるという椎茸しいたけたぼの叔母だの、子供のえためいだの、世帯やつれした妹夫婦だの、なんだの、一家に集まって
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その場所は、紅葉山もみじやま下の西の丸裏御門の内にある、樹齢数百年というおおきなえんじゅの木の下とし、そこに、鉄砲も火縄も、併せて隠しておくから、掘り起して、密かに狙え——ともいった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると大工たちの働いていた紅葉山もみじやま下のあたりで
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)