へつつひ)” の例文
しごきの縮緬ちりめん裂いてたすき凛々敷りゝしくあやどり、ぞろりとしたるもすそ面倒と、クルリ端折はしをつてお花の水仕事、兼吉の母は彼方あちら向いてへつつひの下せゝりつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うちへ入ると、通し庭の壁側かべぎはに据ゑた小形のへつつひの前に小さくしやがんで、干菜ほしなでも煮るらしく、鍋の下を焚いてゐた母親が
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其の大事な火、高價な灰の入つてゐる爐へ、目見えに來たばかりの下女お駒が、へつつひの下の焚き落しを十能に山盛り入れた時の騷ぎは、今でも鮮かに自分の眼に殘つてゐる。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
宜道ぎだうへつつひしてめしをむらしてゐるあひだに、宗助そうすけ臺所だいどころからりてには井戸端ゐどばたかほあらつた。はなさきにはすぐ雜木山ざふきやまへた。そのすそすこたひらところひらいて、菜園さいゑんこしらえてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨夜来たばかりの彼女は珍らしく今朝から老母に代つて早起して甲斐々々かひ/″\しくかすり鯉口こひぐちの上つ張りを着て、心持寝乱れの赤い手柄の丸髷にあねさんかぶりをして、引窓の下の薄明るいへつつひの前に
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)