疑惑うたがい)” の例文
あわくば自分のうちへ誘い込もうとする。したがって根も葉もない噂も立ち、吉岡の母にも有らぬ疑惑うたがいを受けるようになった。実に馬鹿馬鹿しい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「なるほど、その疑惑うたがいもっともだが、あのお延と拙者とは、前から深い仔細があるのだ。少し甘いところは辛抱して、その来歴を聞いてくれ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お富はお秀の様子を一目見て、もう殆ど怪しい疑惑うたがいは晴れたが、更らに其室のうちの有様を見てすっかり解かった。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
歩行あるくに連れて、烏の形動きまとふを見て、次第に疑惑うたがいを増し、手を挙ぐれば、烏も同じく挙げ、そで振動ふりうごかせば、ひとしく振動かし、足を爪立つまだつれば爪立ち、しゃがめば踞むをすかながめて
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
誰も父様を打ちはしませぬ、夢でも見たか、それそこに父様はまだ寝て居らるる、と顔を押し向け知らすれば不思議そうに覗き込んで、ようやく安心しはしてもまだ疑惑うたがいの晴れぬ様子。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
過ぎし日のはかなさ味気なさをつくづく思い知るように成ったのも、実にあの繁子からであった。忘れようとして忘れることの出来ない羞恥はじ苦痛くるしみ疑惑うたがい悲哀かなしみとは青年男女の交際から起って来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実に世には理外の理というものが有るものだと、右の江原が折々に人に語って生涯その疑惑うたがいとけなかったとの事。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
烏の形動きまとうを見て、次第に疑惑うたがいを増し、手を挙ぐれば、烏等も同じく挙げ、袖を振動かせば、ひとしく振動かし、足を爪立つれば爪立ち、しゃがめば踞むをすかながめて、今はしも激しく恐怖し
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼が不得要領ふとくようりょう申立もうしたてをすればるほど、疑惑うたがいの眼はいよいよ彼の上にそそがれて、係官は厳重に取調とりしらべを続行した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「我々と同じ人間がうして𤢖なんぞになったのでしょう。」と、冬子の疑惑うたがいは解けそうも無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もしや夢ではなかったかと云う一種の疑惑うたがいで、迂濶うかつつまらぬ事を云い出して、とんだお笑いぐさになるのも残念だと、の日は何事も云わずにしまったが、う考えても夢ではない
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)