物貰ものもら)” の例文
手がふさがっている? 物貰ものもらいと私は間違えられたのだ! 脳天から打ちのめされたような気がして、私はもうふらふらとした。
全体に門付かどつ物貰ものもらいのやからを、すべて人間の落魄らくはくした姿のように考えることは、やや一方に偏した観方みかたなのかも知れない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いつか、月ノ宮の鳥居とりいの下で見たこともあるが、蛾次郎がじろうは、ただの物貰ものもらいとしか思わないので、いまの餅屋のおつりのうちから鐚銭びたせんを一枚なげて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この寒さにお堀端の吹きさらしへ出ましては、こ、この子がかわいそうでございます。いろいろ災難にいまして、にわかの物貰ものもらいで勝手はわかりませず……
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木之助があけようとして手をかけた入口の格子こうし硝子に「諸芸人、物貰ものもらい、押売り、強請ゆすり、一切おことわり、警察電話一五〇番」と書いた判紙はんしってあった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その話は算うるにえぬほどあるが、馬を題に作った初唄うたう芸妓や、春駒を舞わせて来る物貰ものもらい同然、全国新聞雑誌の新年号が馬の話で読者を飽かすはず故
だから柘榴口ざくろぐち内外うちそとは、すべてがまるで戦場のように騒々しい。そこへ暖簾のれんをくぐって、商人あきうどが来る。物貰ものもらいが来る。客の出入りはもちろんあった。その混雑の中に——
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勝手かってに屋敷の中を通る小学校通いの子供の草履ばた/\で驚いて朝寝のねむりをさましたもので、乞食こじき物貰ものもらい話客千客万来であったが、今は屋敷中ぐるりと竹の四ツ目籬めがきや、かなめ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
乞食は物貰ものもらひに次いでは、音楽家ほど割のいゝ仕事はないと思つたらしかつた。
節分せつぶん物貰ものもらいをしたこともある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何れへゆきたるやと問に長八は何か急用きふようありとて下谷の山崎町へ參りしと答へければ半四郎然樣さう親類しんるゐにても有て行たるやと云に否何か外の用達に參りし樣子なるが山崎町と云處は乞丐頭長屋がうむねながやばかりあつて浪人者や物貰ものもらひの住居する所なりと云ば半四郎それでは長八は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
近頃の記録に出ているのは、すべて願人坊主がんにんぼうずに近い門付かどづ物貰ものもらいのであったが、それでもまだ彼らの唱えあるいた歌詞などの中には、比較に値する僅かずつの特徴が伝わっている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
となお物貰ものもらいという念はせぬ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)