父君ちちぎみ)” の例文
夫人は名を才子という、細川氏、父君ちちぎみは以前南方に知事たりしもの、当時さる会社の副頭取を勤めておらるる。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いって、父君ちちぎみには会わせてもくれず、そのうえ父君をぐみの木河原へ曳き出して首斬りおッた憎いやつ。……わしはとうから、父君のあだを晴らさいでおこうかと狙っていたのだ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄金丸はややありて、「かかる義理ある中なりとは、今日まで露しらず、まこと父君ちちぎみ母君と思ひて、我儘わがまま気儘にすごしたる、無礼の罪は幾重いくえにも、許したまへ」ト、数度あまたたび養育の恩を謝し。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
父君ちちぎみ二代将軍に謁見すれば、家の事に就ても新たなる恩命、慶賀すべき沙汰が無いとも限るまい、愛児の為にしゅうは有るまいと、空頼みと云わば云え、希望に輝く旅立であった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
梛子やしを松と見ればたゞ大磯あたりの心地する海岸のホテルども、夜はがくれのの美しく見え申しさふらふ。赤塚氏は父君ちちぎみへの御土産おんつとに菩提樹の実の珠数玉じゆずだまを買はんと再び船を雇ひてかれさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
憶出おもいだせばこの琴はまだわたしが先生の塾にった時分何時いつぞや大阪おおさかに催された演奏会に、師の君につれられて行く時、父君ちちぎみわたしの初舞台のいわいにと買いたまわれたものだ、数千すせん人の聴客をもって満たされた
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
ただそのさいなにより好都合こうつごうであったのは、ひめ父君ちちぎみめずらしく国元くにもとかえってられたことで、御自身ごじしん采配さいはいって家人がじん指図さしずし、心限こころかぎりの歓待もてなしをされために、すこしの手落ておちもなかったそうでございます。
「おのれ和田呂宋兵衛わだるそんべえ、きょうこそは、かならずなんじの手から父君ちちぎみをとり返してみせるぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世を果敢はかなんで居るうちは、我々の自由であるが、一度ひとたび心を入交いれかへて、かかところへ来るなどといふ、無分別むふんべつさへ出さぬに於ては、神仏しんぶつおはします、父君ちちぎみ母君ははぎみおはします洛陽らくようの貴公子
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)