無恰好ぶかっこう)” の例文
寝間着の上に大島の羽織をまとって、メリヤスのパッチの端を無恰好ぶかっこうに素足のかかとまで引っ張っている高夏は、庭先へ椅子を持ち出していた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、お竜ちゃんは、大きな、無恰好ぶかっこうな数字が一めんにおどっているような私の帳面の方は偸見ぬすみみさえもしようとはしなかった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いずれのカクラサマも木の半身像にてなたの荒削あらけずりの無恰好ぶかっこうなるものなり。されど人の顔なりということだけはかるなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
へそも見えるばかりに前も合わない着物で、布袋ほてい然たる無恰好ぶかっこうな人が改まってていねいな挨拶ははなはだ滑稽こっけいでおかしい。あい変わらず洒はやってるようだ。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
自分は母のいう通り元の席に着いたが、気の毒でちょっと顔を上げ得なかった。そうしてこの無恰好ぶかっこうな態度で、さも子供らしく母からるだけの金子きんすを受取った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロダンは花子の小さい、締まった体を、無恰好ぶかっこうに結った高島田のいただきから、白足袋に千代田草履を穿いた足のさきまで、一目に領略するような見方をして、小さい巌畳がんじょうな手を握った。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
錦蛇にしきへびには違いないが、小さな前肢まえあしが生えていて、大蜥蜴おおとかげのようでもある。しかし、腹部は八戒自身に似てブヨブヨふくれており、短い前肢で二、三歩うと、なんとも言えない無恰好ぶかっこうさであった。
浮き出す度毎たびごとに、その無恰好ぶかっこうに大きな頭の赤毛の揺れっぷり、苦しがって潮を吹く口元、きょろきょろと見廻す眼鏡の巨大なのと、その奥の眼の色の異様なのも、物それを少しも怖ろしくしないで
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)