“滅(き)” の例文
懷舊の念しきりにして、戀慕の情止むことなく、雙眸(さうぼう)涙に曇る時、島國は忽ち滅(き)えたり。月あかき宵の事なりき。島國は又湧き出でぬ。
海をはじめて見た幼い日の驚愕(きょうがく)の念は、それが引き起した錯覚に強調されて、いつまでも滅(き)えずに残って来ているのである。
憐れむべし剛勇みづから恃(たの)める相馬小次郎将門も、こゝに至つて時節到来して、一期三十八歳、一燈忽(たちま)ち滅(き)えて五彩皆空しといふことになつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
プまたいわく、牝馬は四十歳まで年々駒を産み得るも、鬃(たてがみ)を苅らば性慾滅(き)ゆ。その子を産むに当っては直立す。
一年の後、川村氏は既に什器の事を忘れてゐると、或日品川へ一の匣(はこ)が漂着した。幸に封緘故(もと)の如くで、上に題した宛名も滅(き)えなかつたので、此エパアヴは川村氏の手に達した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
胡坐の男は、砂の上に投げ出してある紙莨を一本とつて、チョと燐寸(マツチ)を擦つたが、見えざる風の舌がペロリと舐めて、直ぐ滅(き)えた。復擦つたが復滅えた。三度目には十本許り一緒にして擦る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
(爆発。ファウスト地に倒る。男女の鬼物霧になりて滅(き)ゆ。)
いつしかと眼に滅(き)えぬべきかなしみの映畫(えいぐわ)なれども
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
今はたいかに——滅(き)えさりぬ。
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
滅(き)えなづみつゝ朽ちゆきぬ。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
花もろともに滅(き)えばやな。
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
その讃頌(さんしょう)の声がいつしかしずまる。もはや聞えなくなったかと思うと共に、今まで仰ぎ見ていた御影もまた滅(き)えて行った。
その形は小なれども、略(ほ)ぼ前(さき)に見つる龍卷に似て、碧き光眼を射たり。こはわが未だ除(のぞ)かざる驚怖の幻出する所なるか、將た未だ滅(き)えざる記念の化現(けげん)する所なるか。
胡坐の男は、砂の上に投げ出してある紙莨(タバコ)を一本とツて、チヨと燐寸(マツチ)を擦つたが、見えざる風の舌がペロリと舐めて、直ぐ滅(き)えた。復擦つたが復滅えた。三度目には十本許り一緒にして擦る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ふりつもる「時」の沈默(しじま)にうづもれて滅(き)ゆる昨日(きのふ)よ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
鶴見がこの不思議な夢を傍観して驚異の念に打たれていた隙(すき)に乗じたのでもあるまいが、その夢はすでに滅(き)えかけていた。
劇(はげ)しき風に焔は横さまに吹き靡(なび)けられ、滅(き)えんと欲して僅に燃ゆ。博士は疲れたりとて草寮(こや)に留まりぬ。我等の往手は巖の間なる細徑にて、熔巖の塊の蹄に觸るゝもの多し。
黒い鴉(からす)につぶされて種の凡(すべて)の滅(き)ゆる音。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
頼め、その影、あるは滅(き)え、あるは照らさで。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
薄く光つて滅(き)え去れば
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
額(ぬか)づきし面(おも)わのかげの滅(き)えがてに
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
燈火(ともしび)の滅(き)えにたる過去の火盞(ほざら)と
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)