うれ)” の例文
旧字:
もちろん、T氏も母のおせッかいを好意で見てくれたし、ぼくや弟には、人の家であっても、母が立ち働く姿を見ているだけでもうれしかった。
ウレシという語も、「何すとか君をいとはむ秋萩のその初花のうれしきものを」(同・二二七三)などの用法と殆ど同じである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
うれかなしい過去の追想おもひで、精神の自由を求めて、しかも其が得られないで、不調和な社会の為にくるしみぬいた懐疑うたがひ昔語むかしがたりから
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして、あの海老屋の若者を救い上げたときのうれしさを思い出すと、彼は全く堪らなくなる。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
同じ年恰好かっこうの娘は未だ鼻を垂して縄飛なわとびをして遊ぶ時分に、私はもう世の中のうれしいもかなしいも解り始めましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やはり此巻(二五二六)に、「待つらむに到らば妹がうれしみとまむすがたを行きて早見む」というのがあり、おおいに似ているが、この方は常識的で、従って感味が浅い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
うれかなしい過去の追憶おもひでは丑松の胸の中に浮んで来た。この飯山へ赴任して以来このかたのことが浮んで来た。師範校時代のことが浮んで来た。故郷ふるさとに居た頃のことが浮んで来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おもはぬにいたらばいもうれしみとまむ眉引まよびきおもほゆるかも 〔巻十一・二五四六〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
たとへば、海上の長旅を終つて、をかに上つた時の水夫の心地こゝろもちは、土に接吻くちづけする程の可懐なつかしさを感ずるとやら。丑松の情は丁度其だ。いや、其よりも一層もつとうれしかつた、一層哀しかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其時自分は目を細くして幾度となく若葉の臭を嗅いで、寂しいとも心細いとも名のつけようのない——まあ病人のように弱い気分になった。半生の間のうれしいや哀しいが胸の中に浮んで来た。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)