朝霞あさがすみ)” の例文
朝のま、薄雲ひくく閉じて明けなやむかの如し、とあるなどは京洛の春のつねで、盆地の朝霞あさがすみが、鶏鳴けいめいとなってもなかなか朝光を空に見せずにいたものだろう。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸をけて、海——かと思うた。家をめぐって鉛色なまりいろ朝霞あさがすみ。村々の森のこずえが、幽霊ゆうれいの様にそらに浮いて居る。雨かと舌鼓したつづみをうったら、かすみの中からぼんやりと日輪にちりんが出て来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あきのへにらふ朝霞あさがすみいづへのかたこひやまむ 〔巻二・八八〕 磐姫皇后
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
前後ぜんごあしぼんでのそりとまつて、筑波つくばやま朝霞あさがすみに、むつくりとかまへながら、一ぽん前脚まへあしで、あの額際ひたひぎはからはなさきをちよい/\と、ごとくちのやうにけて、ニタ/\わらひで
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背景には、日蔭の山肌が、壮大な陰影をたたんで、その黒と、湖面の銀と、そして山と湖との境に流れる、一抹いちまつ朝霞あさがすみ。長い滞在の間にも、朝寝坊の私は、珍しくそんな景色を見たのでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まだ朝霞あさがすみがたちこめているので、おおかた薪拾まきひろいの小僧こぞうか、物売ものうりだろうくらいに思っていた蛾次郎は、だんだん近づいて見てびっくりした。どうも、それは鞍馬くらま竹童ちくどうらしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)