ふか)” の例文
見舞に来た隣近所の者が帰って、表の戸をおろした後、草臥くたびれ休めの茶を沸して駄菓子を食いなどして、互いに無事を祝して夜をふかした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
二階には畳が敷いてあった。正月の寒い晩、歌留多カルタに招かれた彼は、そのうちの一間で暖たかい宵を笑い声のうちふかした記憶もあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正金銀行支店の諸君から日本料理の生稲いくいねへ招かれて一を語りふかした。小島烏水うすゐ永井荷風二君の旧知ぞろひで二君の噂がしきりに出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私は朝から家を出ては、友達の所を遊び廻ったり、芝居を見たり、寄席に這入はいったり、なるべく外で夜をふかしていた。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
物語ものがたれば友次郎夫婦はなげきの中にも印籠の再び手に入しことを喜び且龜屋の亭主の侠氣をとこぎなるをかんじ其の夜はつもる物語に夜をふか翌日よくじつに成て此家の亭主を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かゝ物語ものがたり不知不測しらずしらずふかし、やがわたくし遭難さうなん實談じつだんをはると、櫻木大佐さくらぎたいさは、此時このときおもてあらためてわたくしむかつた。
榎町の家では、夜ふかしをするので、紙幣贋造者ではないかと、あやしまれたこともあつた。私は夕方になると、講釈の寄席にさそはれたものだつたが、家庭の愚痴もよく耳にした。
亡鏡花君を語る (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
餅をついたり、酒をのんだり、めでたいめでたいと歌ったりして夜をふかした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある処にて秋のはじめつかた毎夜村の若衆など打ち寄りて辻角力つじずもうを催すに、力自慢の誰彼たれかれ自ら集まりてかりそめながら大関関脇を気取りて威張いばりに威張りつつ面白き夜を篝火かがりびの側にふかしける。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
或年の三月頃の晩、祖父は知合の家で碁を打って、夜をふかされました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ひとりずつ順々に隠し芸をして夜をふかしいよいよ翌朝になってやっとおしまいのひとりが二枚の皿の手品をやって皆の泥酔と熟睡の眼をごまかし或る一隅からのぱちぱちという喝采かっさいでもって報いられ
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
明日はここを立たねばならないから、一同荷造りに夜をふかした。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
みづまかせてふかす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼の談話に耳を傾けるよいふかしたのですが、いかに多くの人が押しかけても、彼のすわるべき場所は必ず暖炉だんろそばで、彼の腰をおろすのは必ず一箇の揺椅ゆりいすときまっていました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝のふき掃除がすんでしまうと、その仲間に加わって、時のたつのを知らずに話にふけっていたお島は、新建しんだちの奥座敷で、昨夜ゆうべ悪好わるずきな花に夜をふかしていた主婦の、起きて出て来る姿をみると
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夜をふかしてお帰りになると、母上はねむらずに待っていられます。廊下でわざと足音を高くして、「おっかあ、帰ったよ」と、一声お懸けになると、それで安心してお休みになるのだとのことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)