暖簾口のれんぐち)” の例文
何故といふに、暖簾口のれんぐちも、暖簾も、皆書割りなので、そこから出入りは無い事に成つてゐるのだが、近眼の思案はそれが分らず。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
表の暖簾口のれんぐちから大手を振って出ても決して差しつかえないものを、平常ふだんの癖である、台所口から汚い草履を突っかけて、ぷいと外へ出た。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六人の客は銘々の相方に誘われて、におの浮巣をたずねに行ったが、お染の客だけは真っ直ぐに帰った。お染とお雪は暖簾口のれんぐちまで送って出た。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中番頭ちゅうばんとうから小僧達こぞうたちまで、一どうかおが一せいまつろうほうなおった。が、徳太郎とくたろう暖簾口のれんぐちから見世みせほうにらみつけたまま、返事へんじもしなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さて刀を置き、若君を戸棚に入れ、戸の前にぬかづく。伝授のまきを内懐に入るる仕草は除けり。刀を提げ、表を開き見て、女房に手にて奥へ行けといひ、二重にて入り替り、暖簾口のれんぐちに入る。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
下男の思案は『此事を主人に知らせよう。』と奥に入るべく、中央の暖簾口のれんぐちに掛つたので、此時後見こうけんの役に廻つてゐた自分は、ビツクリした。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
客を相手に夜をふかして、まだねむたげな湯女ゆなたちは、しどけない寝乱れ姿で板の間の雑巾ぞうきんがけ、暖簾口のれんぐちの水そうじ、雪をかいたあとへ盛塩もりじおを積んで
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背中せなかぱい汚泥はねわすれたように、廊下ろうか暖簾口のれんぐち地駄じだんで、おのが合羽かっぱをむしりっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
後向にて大股に暖簾口のれんぐちに入る。
と、総髪そうはつの若いほうが睨みつけたが、ここは野暮を嫌う色町でもあり、かたがた軒を並べているいろは茶屋の暖簾口のれんぐちには、脂粉の女の目がちらほら見えるので
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
番頭ばんとう幸兵衛こうべえは、帳付ちょうづけふでして、あわてて暖簾口のれんぐちかおしたが、ひと徳太郎とくたろう姿すがたるとてっきり、途中とちゅう喧嘩けんかでもしてたものと、おもんでしまったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
まさか妙齢の処女おとめが、馬に乗ってしち入れにも来まいに、一体なんだろうと立ち止まる者を残して、乗りすてた駒を塗籠ぬりごめさくつなぎ、美女と侍は暖簾口のれんぐちから戸のなかに消え込みました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、——さっきから表の暖簾口のれんぐちで、訪れている者があった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、見ているまに、羅門は、小料理屋の暖簾口のれんぐちを割って
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耕介は、暖簾口のれんぐちの見える縁を通って、奥へかくれた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれ、おんなたちが皆、暖簾口のれんぐちから見ているわ」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)