怪訝いぶか)” の例文
とつぜん、馬上の者が、土にぽんと音をさせて降り立ったので、それには主従も、何事かと、怪訝いぶかりを持たないわけにゆかなかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここでただ怪訝いぶかられるのは、遺品だけならよいが、大甕の中に紋服で端坐していたという人間の遺骸はいったい誰か、という疑問である。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらく、先頃からこの北河内に入りこんでいた六波羅放免の抜け目ないやからも、その怪訝いぶかりに、今は、全神経を徒労していたにちがいない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日吉はまた、母の乳ぶさに吸いついている乳のみ児に、怪訝いぶかるような眼をすえていた。いつの間にか、自分の家にまた一人子がえていたのだ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてただ「ちょへい? ちょへい?」という怪訝いぶかりの小声だけが、魔のささやきみたいに、盛り場の昼を、吹き廻っていた。
佐渡は怪訝いぶかったが、まったく大坂城からのみつぎがないとすれば、落魄おちぶれた大名の末路はこうもあろうかと思わぬでもない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
再度、何事の召しであろうと、怪訝いぶかり顔に、各隊の部将たちは、呼び込まれた幕囲いの中に、膝つめ合せてひかえていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、玖満子夫人は、経理課員や糧食係の怪訝いぶかっていることなど、少しも意にかけず、婦人部隊の全員に、そこへ入って、食物を獲ることを命じた。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうして、あんな柔軟な細枝の切り口を見て、非凡な切り手ということが貴君には分りましたか。そのほうが、吾々には、むしろ怪訝いぶかしいのですが」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いったい何しに、佐々木の兄弟どもは、相模まで帰ったのでござるか。……帰るのからして怪訝いぶかしいではないか。この大事をひかえた数日前などに」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例年やる駒場野のお鳥追とりおいは、秋の末頃であるのにと、誰もが怪訝いぶかしく思って当日の様子を聞き探ると、野遊は表向きのお触れで、当日鷹地の御用狩屋で
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その短身小躯しょうくな風采と、それに似ない大胆不敵ぶりとを、怪訝いぶかり合ってざわめいているもののようであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、つぶやいて、一瞬ではあったが、すべての者の眼と怪訝いぶかりとが、彼女と小猿の姿にとらわれてしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっきから彼の背後うしろに立って怪訝いぶかしげに眺めていた婦人がある。娘と母であろう、二人とも軽い旅装たびよそおいはしているが身綺麗にして、男の供も連れていない様子。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼の遁世とんせい怪訝いぶかしがった世人は、やがて佐々木小次郎に彼が負けたということを誇大に取って
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけに、若い不平分子の火いたずらの仲間などに、何で加盟したものか、分らない心理の持主として、平家方の陣地から眺めると、ただ怪訝いぶかられるばかりだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その万兵衛が、街道ばたの人足たちと、友達のように馴々しくいわれるのは、怪訝いぶかしかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「てまえは、臥龍の岳父しゅうと黄承彦こうしょうげんというものじゃが……して、あなた様は?」と、怪訝いぶかった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、鞍つぼにだらりと両手をぶら下げているのを眼で示すと、駕屋は、ちょっと怪訝いぶかって
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「振落されるのは嫌じゃから、あらかじめ、馬のごきげんを取って乗る。しかし、傍人ぼうじん怪訝いぶかられるほど、それが目立つとすればわしにも到らぬ点がある。以後は気をつけよう」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
危険なということが第一と、京都へ上る以上は、信長の胸に、何の大志、何の秘策かがあってのことにちがいないがと、その目的の何か、かえって大きな怪訝いぶかしみにとらわれたのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここでは、いくら泣いていても、なだめてもなし、怪訝いぶかる者もいなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将門は、不快と、怪訝いぶかりに、思わず左の手で、太刀のさやを握った。燭は、二ヵ所にもまたたいているが、生憎あいにくと、あいての寝顔が見えないため、ずかずかと、男のそばまで、歩いて行った。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大坂本願寺の門跡もんぜき顕如上人けんにょしょうにんの使いらしき僧が、二条のおやかたを去って、何やらあわただしゅう立ち帰って行きました。——先頃から、僧徒と将軍家との往来に、怪訝いぶかしいものを感じまするが」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
力のない、人影が、そこの門を、ふらふらと、出て来たと思うと、自分には声もかけず、魂のぬけ殻みたいに、蹌踉そうろうとして、歩み去って行くので、彼は、オヤ? と怪訝いぶかりながら闇をかして
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも大きく口を結び、眸を澄まし、見るがごとく、見ぬがごとく、新入りの魯達をひそかに凝視のていだったが、どの顔つきにも「……はてな?」と、いいたげな怪訝いぶかりが甲乙なくただよっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが怪訝いぶかる者もまた続いた。彼ら末輩は、ただひるがえる旗を仰いだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怪訝いぶかって三郎正近や金王丸をはじめ、人々が声をそろえて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、みな怪訝いぶかっているという点にある——と称していた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の怪訝いぶか容子ようすを見て、藤吉郎はわらいながら云った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、まぶしげな怪訝いぶかりをしかめあっている顔つきだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、怪訝いぶからざるを得ない気持にとらわれてしまう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帝には、なお、怪訝いぶかりのとけぬご容子で
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、むしろ怪訝いぶからずにはいられなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怪訝いぶかる敵のわれわれへ云われるには——
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又八の怪訝いぶかるのはもっともだった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、怪訝いぶかっている信玄であった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸将は孔明の意中を怪訝いぶかった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の純情が、怪訝いぶからせる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、怪訝いぶかると、重治は
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喜太夫は、怪訝いぶかって
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは怪訝いぶかしい」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)