思直おもいなお)” の例文
心の中では思直おもいなおして、この馬鹿者めが、何も知らずに夢中に威張いばって居る、見苦しい奴だとかえって気の毒に思うて、心中却て此方こっちから軽蔑けいべつして居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
裏口の引戸ひきどを開ける音とともに物干台に出ていた女がどしんと板のへ降りる物音。つづいて正午のサイレンが鳴り出す。女は思直おもいなおしたようにすわり直って
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其中で私一人其様そんな事を思うのは何だか薄気味悪うすきびわるかったから、狼狽あわてて、いや、馬鹿気ているようでも、矢張やっぱり必要の事なんだろうと思直おもいなおして、素知そしらん顔して
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
目科はと厳格に「はい警察署から送られました、わたくしは其筋の探偵です」と答う探偵との返事を聞き倉子は絶望せし人のごとく元の椅子に沈み込み殆ど泣声なみだごえを洩さんとせしも、思直おもいなおしてか又起上たちあが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
面責した上、女の口から事実を白状させてあやまらせねば、どうも気がすまない。しかしまた更に思直おもいなおして見ると、君江は見掛けに似ず並大抵の女でない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
負けるにきまって居る、戦わずして勝負は見えてる、一切喧嘩はしない、アンナ奴と喧嘩をするよりも自分の身の始末が大事だと思直おもいなおして、れからシラバクレてきもつぶしたふうをして奥平の処に行て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これ必定ひつじょう、駈落の侍が路用ろようの金なるべしと心付き候へば、なほ更空恐しく相なり、後日ごじつの掛り合になり候ては一大事と、そのまゝ捨て置き立去らむと致せしが、ふとまた思直おもいなおせば
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)