心易こころやす)” の例文
お藤さんはずっと後まで御丈夫で、お心易こころやすくしていました。お兄様の誕生日などに、団子坂の家へお出のことなどもありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
わたくしが栄子と心易こころやすくなったのは、昭和十三年の夏、作曲家S氏と共に、この劇場の演芸にたずさわった時からであった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(藁椅子に腰を掛く。学士は椅背きはいに寄りかからずに、背を真直ますぐにして腰を掛く。○間。)あなたマルリンク家とお心易こころやすくしていらっしゃいますの。
ひと如何いかにともよ、吾身は如何にとも成らば成れと互に咎めざる心易こころやすさをぬすみて、あやし女夫めをとの契をつなぐにぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ことにその最近の便りは、旅に来て岸本が彼女から受取ったかずかずの手紙の中でも一番心易こころやすく読めるような、わだかまりの無い調子で書いてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私が沼南と心易こころやすくなったはその後であった。Yが私の家へ出入でいりしていたのを沼南はく知っていたが、私も沼南もYの名は一度でもおくびにも出さなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
雲というやつはまだおれ達と心易こころやすいものなのだからな。雲を見るのはお馴染なじみのものを見るようなものだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
何事なにごともすべてお心易こころやすく、一さい遠慮えんりょてて、くべきことはき、かたるべきことはかたってもらいます。
「おい、大将」と呼びかけられて、猫八ねこはちは今まで熱心に読みふけってた講談倶楽部こうだんクラブから目をその方に転じた。その声ですぐその人だとは分ってたので、心易こころやすい気になって
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
とお多喜は、まるで相識しりあいの人に話しかけるような心易こころやすい言葉で、八幡様に向い、なおも口の中で
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あやし可恐おそろしいものがあらわれようとも、それが、小母さんのお夥間なかまの気がするために、何となく心易こころやすくって、いつの間にか、小児こどもの癖に、場所柄を、さしてはばからないでいたのである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ソレカラ思イツイテ、心易こころやすイ者ヘ高利ヲカシタガヨカッタ、浅草ノ奥山ノ茶屋ヘ金ヲカシタガ、是ハマダルカッタガ、ソノ代り山中ハハイハイトイイオッタ故親分ノヨウダッケ」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
心易こころやすいものだからね。僕が引っぱりだしたんだよ。だが、この捕物は十分それだけの値打がある。相手が前例のない悪党だからね。実際世の中には想像も出来ない恐しい奴がいるものだね
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
瑠璃子は、ついそうした心易こころやすい言葉を出すような心持ちになっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
礼助は、こんなところで兄から何か云ひ出されてはたまらないと思つたので、遠路に辟易へきえきした顔をして愚痴ばかりこぼしてゐた。円通寺に辿たどりつくと、ほつとした。兄は式台に片足かけて心易こころやすさうに
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
酒は自分では飲まないが、心易こころやすい友達に飲ませるときは、すきな饂飩を買わせる。これも焼芋の釜の据えてある角から二三軒目で、色のめた紺暖簾こんのれんに、文六と染め抜いてある家へ買いにるのである。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「叔父さん、叔父さん」と頼みにして来て、足の裏を踏んでくれるとか、耳のあかを取ってくれるとか、その心易こころやすだてを彼はどうすることも出来なかったのである。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母親は物を見るべき力もあらずあきれ果てたる目をばむなしみはりて、少時しばしは石の如く動かず、宮は、あはれ生きてあらんよりたちまち消えてこの土と成了なりをはらんことの、せめて心易こころやすさを思ひつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
当時の印刷局長得能良介とくのうりょうすけは鵜飼老人と心易こころやすくしていたので、このうわさを聞くと真面目になって心配し、印刷局へ自由勤めとして老人をへいして役目で縛りつけたので、結局この計画は中止となり
三人目の品川四郎が、品川四郎の声で、品川四郎の心易こころやすさで話しかけた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
又々、関川讃岐トイウ易者ト心易こころやすイカラ、通リガカリニ寄ッタラ、アナタハ大変ダ、上レトイウ故、上ヘ通ッタラバ、女難ノコトヲ云イオッテ、今晩ハ剣難ガ有ルガ、人ガ大勢痛ムダロウトテ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
荒波あらなみやまくずるるごとく、心易こころやすかる航行は一年中半日も有難ありがたきなり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「岡君も有る時には有るが、無い時にはまた莫迦ばかに無い人だねえ」と岸本は心易こころやすい調子で言って笑った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
摩利支天まりしてんノ神主ニ吉田兵庫トイウ者ガアッタガ、友達ガ大勢コノ弟子ニナッテ神道ヲシタ、オレニモ弟子ニナレトイウカラ、行ッテ心易こころやすクナッタラ、兵庫ガイウニハ、勝様ハ世間ヲ広クナサルカラ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ、夕飯の馳走ちそうにでも成るように、心易こころやすい人達を相手にして、はなしたり笑ったりした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ええ、あの方、異人の大将にごく心易こころやすい方があるんですって。ですから、あの方に紹介していただけば、間取間取まどりまどりもみんな見せてもらえるし、見晴し台へも上れるし、その遠眼鏡も、飽きるまで見せてもらえるんですとさ」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
節子は高輪の方にある時とも違う心易こころやすさから、二階を片付けながら岸本に話しかけに来ることもあったが、そのたびに次郎が彼女にいて来た。一郎までがめずらしそうに二階へ上って来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)