崇拝すうはい)” の例文
旧字:崇拜
松野が馬鹿に僕を崇拝すうはいするんで、妹にその気持ちが乗り移ったんですよ。その上この間のN展覧会場で一寸僕に会ったんですよ。
好い手紙 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
京子の崇拝すうはいする小説家としてお茶の会などには招いたこともあるので、蘭堂が犯罪捜査などには仲々腕のあることもよく知っていたのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてわたしはうとうと寝入りながら、これを名残なごりにもう一遍いっぺん、信頼をこめた崇拝すうはいの念をもって、その面影にひしとばかりとりすがった。……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかしてゲーテ崇拝すうはいの念の増すのは、さきの某文士のげんによれば、あるいはみずか俗化ぞっかして理想の光明こうみょう追々おいおいうすらぐのそしりを受けるかも知れぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
驚くべき濫費らんぴだ。私はこの男の計り知れざる財力に一種の崇拝すうはいを感じた。不思議なもので、こんな時には、嫉妬しっとの念よりも、崇拝の念が先におこるものだ。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ただしそれは後の話で佐助は最初燃えるような崇拝すうはいの念を胸の奥底に秘めながらまめまめしく仕えていたのであろうまだ恋愛れんあいという自覚はなかったであろうし
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
陰謀政治家が崇拝すうはいせられる時期もあれば平凡な常識円満な事務家の手腕が謳歌おうかせられる時期もある。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
朝倉先生が学生時代から兄事けいじ崇拝すうはいさえしていた同郷の先輩で、官界の偉材いざい、というよりは大衆青年の父と呼ばれ、若い国民の大導師だいどうしとさえ呼ばれている社会教育の大先覚者で
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その人の作には感心してはおらぬが、出版者としての勢力が文壇に及ぼす関係などを想像してみたり、自分の崇拝すうはいしている明星一派の不遇などをそれにくらべて考えてみたりした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おじいさんは、わか時代じだいから、この英雄えいゆう物語ものがたりいて、ふか崇拝すうはいしていました。そして、上野うえの公園こうえんへいったら、かならず、この銅像どうぞうてこなければならぬということもっていました。
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
唯将軍と余の間に一のえんを作ったに過ぎぬ。乃木将軍夫妻程死花しにばないた人々は近来きんらい絶無ぜつむと云ってよい。大将夫妻は実に日本全国民の崇拝すうはい愛慕あいぼまととなった。乃木文学は一時に山をなして出た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旗本の次男の杉次郎という武士が、女王様のように崇拝すうはいをしている、奥様の心をたぶらかして、奥様の心を引っ張り寄せて、愛人としての位置を掴んだかのように、京助に感じられたことであった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうしておじ様は、官員様ばかりそう崇拝すうはいなさるの」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辻野氏に化けた二十面相は、まるで明智探偵を崇拝すうはいしているかのようにいうのでした。しかし、ゆだんはできません。彼は国中を敵にまわしている大盗賊です。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なさろうと、たとえどんなに僕がいじめられたろうと、僕は一生涯いっしょうがいあなたを愛します、崇拝すうはいします
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
僕がもっとも崇拝すうはいする人物はキリストのほかにソクラテスとリンカーンであるが、二人とも生きているあいだに名声さかんで、一時流行児はやりっことなって大いにもてはやされたが
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかもその軍人たるや、かくの如くに天皇をないがしろにし、根柢的に天皇を冒涜ぼうとくしながら、盲目的に天皇を崇拝すうはいしているのである。ナンセンス! ああナンセンス極まれり。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)