山蛭やまひる)” の例文
出雲守頼門たった一人、薄暗い密林の中を、山蛭やまひるに悩まされたり、蛇に脅かされたり、半ば夢心地で、フラフラと歩いているのでした。
山蛭やまひるやヤブ蚊の責めや、また、一種の青葉れが、よろい固めの五体をやりきれなくして、仲時はつい眠りもえなかった。そして
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまひとおそるゝ、名代なだい天生峠あまふたうげして、あゝつたるゆきかな、と山蛭やまひるそではらつて、美人びじん孤家ひとつや宿やどつたことがある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ビックリ仰天して逃出すと、頭の上から大鷲が蹴落しに来る。枝の間をつたわって逃げおおせたと思うと、今度は身体からだ中にだにがウジャウジャとタカリ初める。山蛭やまひるが吸付きに来る。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
巨木が鬱々と繁っていて、峠の路は薄暗く、山蛭やまひるなどが落ちて来て、気味の悪さも一通りでなかった。と、その時唸りをなして、一本の征矢そやが飛んで来たが、杉の老幹の一所へ立った。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
森の妖婆か山蛭やまひるにでも執着されてゐるやうな、毒血のしたたる思ひに悩んだ。
老嫗面 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
まだ足りないで、あかりを——燈を、と細い声して言うと、土からもけば、大木の幹にも伝わる、土蜘蛛だ、朽木だ、山蛭やまひるだ、おれ実家さと祭礼おまつりの蒼い万燈、紫色の揃いの提灯、さいかちいばらの赤い山車だしだ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)