なまめ)” の例文
坐り直すとかえって、躯の線のやわらかさと、なまめかしさとが際立つようにみえた、「いいこと、お師匠さん」と女はあまえた口ぶりで云った
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今日はことして来にけるを、得堪えたへず心のとがむらん風情ふぜいにてたたずめる姿すがた限無かぎりななまめきて見ゆ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
余は一人長椅子の上にすわった。そうして永い日がかたむき尽して、原の色が寒く変るまでぽかんとしていた。すると静かな野の中でどうぞ、ちと御遊びに、私一人ですからと云うなまめかしい声がした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「鶯嬌柳嚲美人天。墨水東山春正妍。好箇家郷不能住。満簔風雨入蜑烟。」〔鶯なまめキテ柳ル美人ノ天/墨水東山春正ニ妍ナリ/好箇ノ家郷モ住ム能ハズ/満簔ノ風雨蜑烟ニ入ル〕の一首を題した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
というなまめかしい声。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逢っているうちは極めてなまめかしく、いまにも肌をゆるしそうにみせながら、もう一歩というところで巧みにかわされてしまう。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その夜具は大きく厚く、なまめかしい色のもので、脇に小さな茶箪笥と長火鉢があるため、深喜は坐り場に困った。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むしろ伝法でんぽうな姿であって、しかもその身ごなしの柔軟さや、はにかみのために消えたそうな表情のういういしさは、たとえがたいほどなまめかしく、いろめいてみえた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おるいの顔になまめかしい微笑がうかんだ、「売り子っていうのはやくざなかまの人なんでしょ」とおるいが云った、「まさか悪いところなどへいったんじゃないでしょうね」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
したたるようななまめかしさもびだけではない、けれども、そのなかにどこかひとつ、こちんと固いようなものがあった、あの溶けるようないろっぽさが、抑えようのない
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あら先生、お久しぶり」とおきぬはなまめかしく云った、「よく御精が出ますことね、あたしもこのところ、また頭痛が続いて困ってるんですの、いちどぜひうちへ来て——」
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なまめかしいというよりは、伝法な、じだらくな恰好で、幹太郎はかっとなった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「今日は飲むの」おみのはなまめかしい表情で微笑し、手酌でまた酒を啜った
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)