くしゃみ)” の例文
快活で、わだかまりがなくて、話が好きで、碁が好きで、ひまさえ有れば近所を打ち歩き、大きなくしゃみを自慢にする程の罪のない人だった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
銀座は空いた円タクが止度とめどもなく通る。新太郎君は車体の新しいのを物色するため三四台り過ごしてから頷いた。円タクはくしゃみをしても止まる。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
くしゃみを殺した馬春堂の赤い鼻を眺めると、まことにたよりすくない易面が、かれよりは客の胸にこそ先へうかぶでしょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はくしゃみをした。そして傍にあった一升徳利を引き寄せると、重さでぶるぶる手を震わせながら茶椀の中へ注ぎ込んだ。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
袋を出たとたん丁坊は大きなくしゃみを二つ三つ立てつづけにやった。隊員は用意の毛布で、丁坊の身体をつつんでやった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
イヷン・イヷーヌィチはハンカチにくしゃみをして、元気づき、今やっと眼が醒めたように私と妻の顔を見まわした。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると、しばらくしてから、今度は三度のものを時々吐くようになった。咽喉のどの所に大きな波をうたして、くしゃみとも、しゃくりともつかない苦しそうな音をさせる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう———鼻のあたまをパタパタたたき始めたと思ったら、途端にわたくし、続けざまに二つ三つくしゃみが出ましたんですが、そんなことッてございますもんでしょうか
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くしゃみばかりしてベエたれ通しで肉おっぴり出す程だによ、婆ア様に宜しく云って下せえ、左様だら
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうして突然に大きなくしゃみを一つしたが、それは汗が乾きかけたせいであったろう。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この時下男の八蔵が、突然大きなくしゃみをした。彼はいくらかおろかしいのであった。さっきから一人茫然ぼうぜんと雪中に立っていたのであった。下男の嚏が伝染うつったのでもあろう、一閑斎も嚏をした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ふふふふ、おかしなおばあさん、二階でくしゃみしてるわよ、今頃」
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
びっくりするような、くしゃみが突然そこから聞こえましたので、万太郎の目がふと白くヒラヒラする机掛けを見ると、雨によごれた布の文字が——馬春堂流神易しんえき
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色々と調べられたが、乃公はんだとも潰れたとも言わなかった。其中そのうちに校長はくしゃみを始めた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その男が御免ごめんなさい、どうもくしゃみが出てと、手帛ハンケチを鼻へ当てたが、嚏の音はちっともしなかったから、余はさあさあと、あんに嚏を奨励しょうれいしておいた。この男は自分で英人だと名乗った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くしゃみをすればらいとなり、欠伸あくびをすれば雲となる。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
とまた一閑斎はくしゃみをした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くしゃみが出やしなかったかい? 今お前の話をしていたんだよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また折悪しくクシ——ンと出るくしゃみを横へ飛ばしてしまう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ホホホ。乱暴なくしゃみねえ。アンタのは……」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
チンはくしゃみをするかも知れないが、笑って堪るものか。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)