叢林そうりん)” の例文
半之助はちょうど、岩の食卓で、昼餉ひるげを喰べているところだった。下の林のほうで、がさがさと叢林そうりんの揺れる音がし、人の声が聞えた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大きくはないが喬木きょうぼくが立ちめて叢林そうりんを為した処もある。そしてその地には少しも人工が加わっていない。全く自然のままである。
だが、趙の山轎やまかごを見送って、叢林そうりんの一房に帰ってくると、彼はもう長者の言も忘れ顔に、ごろりと仰向けに寝ころんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに、かつて鬼熊が出た方面の叢林そうりんへ行けば、ただ路傍を歩いていても発見できるに違いない。埼玉県も浦和から大宮の間の林には相当いる。
採峰徘菌愚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今日でもなお、燃やされた古い木の幹などの明らかにそれと認めらるる痕跡こんせきで、叢林そうりんの奥に震えていたあわれな人々の露営の場所が察せらるる。
おびただしい露店の群れがある。到るところに抜け裏がある。その上ひっきりなしの大群衆だ。それらがすべて、犯人が身を隠す叢林そうりんにも等しいのだぜ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
又、最近死んだパータリセの兄が其の日の午後叢林そうりんの中で少年に会い、彼の額を打ったに違いないと。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
叢林そうりんは大地を肉体として、そこから迸出ほうしゅつする鮮血である。くれない極まって緑礬りょくばんの輝きをひらめかしている。物の表は永劫えいごうの真昼に白みわたり、物陰は常闇世界とこやみせかい烏羽玉うばたまいろをちりばめている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
話によるとこの竹の苗は奈良朝の初期にからの国から移植されたものらしいんだが、三百年足らずの間にどうだ、この東の国の一劃いっかくにも、このように幽麗な叢林そうりんを形成してしまったのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
この灌木かんぼくは、ここではしばしば十五フィートから二十フィートの高さにもなって、ほとんど通り抜けられないくらいの叢林そうりんとなって、あたりの大気をそのかぐわしい芳香でみたしている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
慧能の後、ほどなく馬祖ばそ大師(七八八滅)これを継いで禅を中国人の生活における一活動勢力に作りあげた。馬祖の弟子でし百丈ひゃくじょう(七一九—八一四)は禅宗叢林そうりんを開創し、禅林清規ぜんりんしんぎを制定した。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
「会社存亡のとき」を名として、全職工を売ろうとしている彼奴等のからくりをそこで徹底的にさらけ出した。——と、職工たちのなかに、風の当った叢林そうりんのような動揺がザワ/\と起った。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
山は高房山こうぼうざん横点おうてんを重ねた、新雨しんうを経たような翠黛すいたいですが、それがまたしゅを点じた、所々しょしょ叢林そうりん紅葉こうようと映発している美しさは、ほとんど何と形容していか、言葉の着けようさえありません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
左側の叢林そうりんの中からとびだして来たのである、……そこだけ月の光が明かあかとさしているので、男たちの風態は鮮やかなほどよく見えた。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また疎石和尚そせきおしょうを鎌倉へしょうじるなどのことにも熱心だったひとで、女性ながら五山の叢林そうりんでもおもきをなしている尼だった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舗石しきいしいくさ叢林そうりんの戦に劣らず壮烈であり悲壮である。後者には森林の魂がこもっており、前者には都市の魂が籠っている。
息子はいざり乞食に、おやじは大道易者に、そして、互いに連絡を取りながら、群衆の叢林そうりんの中に身を隠していようとは、なんという奇想天外の欺瞞ぎまん手段であったろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たくましいサモア青年達のリレーによって、叢林そうりん中の新しい道を、山巓に向って運ばれるのである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
初夏、浅緑のおおう渓のなぎさにたたずめば、前白根に続いた近い斜面の叢林そうりんが美しい。
水の遍路 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
故ヲ以テ余ノ上人ニオケルヤ交情もっとも熟ス。上人つとニ相宗ノ学ヲ以テ叢林そうりんニ称セラル。ソノ韻語ニオケルヤ固ヨリ遊戯余事ニ属ス。就中なかんずく著題ノ詩ハ特ニソノ長ズル所ナリ。篇什へんじゅう二百余首ニ及ブ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、やがてだらだらと上へ辿たどると、空を、おおうていた叢林そうりんもとぎれ、沢辺さわべの水明りも足元を助けて、そこに一つの道しるべの石が見出されます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大多分はまだ叢林そうりんはびこるにまかせた荒地で、ことに平地の中央を流れる目黒川は年々ひどく氾濫はんらんするため、両岸にはあか砂礫されきの層が広く露出していた。
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ブルツス、マルセル、ブランケンハイムのアルノルト、コリニーなどに、みな恥辱の烙印らくいんを押すことができるか。叢林そうりんの戦い、街路の戦い、それが何ゆえにいけないか。
叢林そうりんの中を大体見当をつけて東へ進む。漸く河の縁へ出る。最初河床は乾いている。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
目ざすところは、武蔵野の大泉方面の叢林そうりんである。
採峰徘菌愚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
国吉は五日間、裏の叢林そうりんの中にひそんでいた。空腹は殆んど感じなかったし、耐えきれなくなれば山柿があった。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その城内街もずっと北郊に一叢林そうりんの大邸宅があった。土地でも著名な名園でまた名族でもある柴皇城さいこうじょうの家である。——が、そこで馬を降りるやいな、柴進は
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしいて来られては困る。叢林そうりんの中へ逃げ込むのに、馬が跟いて来ては、追手に所在を教えるようなものだ。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たちまち、熊手や投げ縄が、八方の叢林そうりんから飛び出して、彼を馬の背からからめ落した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その外はすぐに山へ続く叢林そうりんである、仔熊のがさがさ暴れる音が、遠のいてゆくのを聞きすましてから、孝也は戻って、召使長屋を叩き、弥六を呼びだした。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
断崖、渓流、闇黒と叢林そうりんの天地を峰づたいに、生命いのちがけで逃げて来た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
厚さ三尺もある築地塀ついじべいが三方を囲み、背後は将監台の叢林そうりんがけになっていた。構の中には百坪足らずの母屋が鍵形に延び、高廊架で別棟の隠居所と通じている。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
稲妻型におりてゆく石段の一方は、おおいかぶさるような叢林そうりんで、やかましいほど虫が鳴きしきっていたし、ときどきその虫が、提灯をめがけて飛びついて来た。
「かんば沢へも今年の冬には、はいってみようと思います、遠くから見たところでは、叢林そうりんが深すぎてちょっと近よれそうもない、冬でなければだめらしいんですよ」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のちに丘上の叢林そうりんをひらいて天満宮が建てられ、そこから北よりに切通しができてからは廃絶してしまったが、それ以前からあまり登りおりする者はないようであった。
また上からは椎の樹立の黒ずんだ枝葉や叢林そうりんがのしかかっているため、いつも暗くじめじめして、空気は湿った黴臭かびくささに満ちていた。みぎわの葦は日光に恵まれなかった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二人は外へ出ると、すばやく第一の繩梯子なわばしごを登り、そこからすぐ右へ、叢林そうりんの中をぬけてゆき、(第二の繩梯子は登らずに)急斜面をまっすぐに、加波山神社の境内へと出た。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれらは叢林そうりんがけの蔭から弓で射るのです。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)