処女をとめ)” の例文
旧字:處女
なよらかな銀いろの靄のなかで、鈴蘭の花の咲きみだれた牧場のやうに、白い下著をきた処女をとめたちが、影のやうに軽やかに揺曳してゐる。
毎年に一度の祭りあるごとに、生贄いけにへをぞ供へけるが、その生贄は、国人くにびといまとつがざる処女をとめをば、浄衣じやういに化粧してぞ奉りける。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかれども背ものび/\といふところにて、親々の眼には極めて処女をとめらしく見ゆる事を知らせたり。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
さう思ふと、瑠璃子は処女をとめにふさはしい勇気を振ひ興して、孔雀のやうな誇と美しさとを、そのスラリとした全身に湛へながら、落着いた冷たい態度で、玄関に現れた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
左様さうぢやないです」と剛一はあたまりつ「仮令たとひ世界を挙げても、処女をとめの貞操と交換することの出来ない真理が解らぬかツて、憤慨して居られました、何でもの翌日と云ふものは、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ステパンは今その時期になつてゐて、マリイをたつといものゝやうに見上げてゐるので、その天使のやうな処女をとめにお前なんぞと云ふ事は出来にくいのである。ステパンはやうやうの事で語を次いだ。
茶館ちやくわんには「清潤甜茶せいじゆんてんちや」のへんがありにほへる処女をとめ近づききた
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
子供かれは感じる処女をとめらの黒い睫毛まつげがにほやかな雰気けはひの中で
恋知らぬ素直なる処女をとめごとくにし
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
処女をとめぬるおほかたの
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おお花の処女をとめ
⦅ああ、あたし、もう鴉はいや!⦆疲れてがつかりして、その処女をとめが言つた。⦅可哀さうなお母さん鳥の雛子ひよつこをさらふなんて、むごいことよ!⦆
美しい二人の処女をとめは、その臥床辺ふしどべに現れる
われは処女をとめとなりにけり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
匂へる処女をとめ、清き妻
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
令嬢パンノチカはにつこり微笑わらつた。すると処女をとめたちは叫び声をあげながら、今まで鴉になつてゐた女をつれて、行つてしまつた。
処女をとめとこそはなりにけれ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
季節の処女をとめ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
処女をとめは水に濡れて、まるで硝子の肌着を著けたやうに光つてゐる。唇には怪しげな微笑が宿り、頬は情熱に燃えて、両の眼が人の心をそそる……こんな娘から恋をしかけられ、接吻をされたなら……。