兇暴きょうぼう)” の例文
神谷は猫を飼ったことがあるので、そういう舌の恐ろしさをよく知っていた。兇暴きょうぼうな肉食獣の舌、猫かとらか、でなければひょうの舌だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六郎兵衛はこぶしをにぎった。なにか兇暴きょうぼうなことをしたいという、激しい衝動がつきあげてき、彼は持っている盃を、膳の上へ叩きつけた。
今朝もうやって強い風に逆らって立っている。何か烈しいもの、兇暴きょうぼうなもの、嵐のようなものに、ぐっとぶっつかって行きたいのだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
だがこの三人がスコール艇長、じつは怪人ガスコ氏の兇暴きょうぼうなる陰謀を知りつくしているわけではないから、危険は刻一刻とせまってくる。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
たださえ兇暴きょうぼう野武士のぶしが焼けだされてきた日には、どんな残虐ざんぎゃくをほしいままにするかも知れないと、家をざして村中恐怖きょうふにおののいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
比叡山ひえいざん延暦寺えんりゃくじの山法師、興福寺の奈良法師、所謂いわゆる僧兵の兇暴きょうぼうぶりは周知のとおりであり、事毎に争乱の渦中かちゅうにあった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
のちに到り、所謂青年将校と組んで、イヤな、無教養の、不吉な、変態革命を兇暴きょうぼうに遂行した人の中に、あのひとも混っていたような気がしてならぬ。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人がとらを殺すと狩猟とい、紳士的な高尚な娯楽としながら、虎が偶々たまたま人を殺すと、兇暴きょうぼうとか残酷とかあらゆる悪名を負わせるのは、人間の得手勝手です。我儘わがままです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
やっとのことでいこんできた佐平治のまえへ、傷ついたオオカミのように兇暴きょうぼうな左近将監の目が、いざといわば真っぷたつ! とばかりに、刀の鯉口こいぐち切ってにじりよってまいります。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「いや、僕も東洋人だ。同じ東洋人のために、兇暴きょうぼうな白人と戦わねばならない」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
兇暴きょうぼう無類の評ある大江山の酒顛童子、その子分か義兄弟のごとく考えられた茨木童子なども、単に今まで見ず知らずの他人に対して残忍であったというのみで、ひるがえってその家庭生活を検すれば
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
重三郎は兇暴きょうぼう極わまる曲者でした。
歯を食いしばったり、指を傷つけたりして、何かしら兇暴きょうぼうな衝動をおさえつけようとしているのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と言っても決して、兇暴きょうぼうな発作などを起すというわけではありません。その反対です。
トカトントン (新字新仮名) / 太宰治(著)
太子は何故これに徹底的な抑圧を加えなかったか、馬子うまこ兇暴きょうぼうを何故黙視しておられたか——後世史家の屡々しばしば問題としたところであるが、太子の憂悩もまたそこにあったと拝察される。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ながいあいだ日本の悪辣あくらつな商人にいためつけられて、ひどく狡猾こうかつ兇暴きょうぼうになっているそうだ、しかしその二人は運がよく、日本人どうしでもまれなほど親切で、誠意のある土民にめぐり会った
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人の惨死ざんしを見ると、人間はわすれていた兇暴きょうぼうがたけりだす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとなしい割に兇暴きょうぼうな一面をもっています
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間があんなに恐ろしいうなり声を立てるはずがない。動物だ。犬なんかよりはずっと兇暴きょうぼうな猛獣の唸り声に違いない。この陰気な屋敷には、けだものが飼ってあるのだろうか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私はのろのろと起きあがり、頭をあげて百姓のもとへ引返した。百姓は、女給たちに取りまかれ、まもられていた。誰ひとり味方がない。その確信が私の兇暴きょうぼうさを呼びさましたのである。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)