修羅場しゅらば)” の例文
やがて、あけの鐘の鐘つき男によって発見されたこの一場の修羅場しゅらばのあとが、一山いちざんの騒ぎとなったことは申すまでもありません。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この男は自分の立場を弁証する積りか、何彼につけて夫婦者をけなす。家庭を修羅場しゅらばのように言う。夫婦生活は一人の男と一人の女の葛藤かっとうの外に何にもないように思っている。
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたくしは妙な人間で、江戸時代の若いときから寄席の落語や人情話よりも講釈の修羅場しゅらばの方がおもしろいというたちで、商売柄にも似合わないとみんなに笑われたもんですよ。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
飛び上がり立ちすくんだ二人の眼前へそれにもまして奇々怪々の物凄い修羅場しゅらばが展開された。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ウム、すっかり忘れていた。あの槍襖やりぶすまにおどろいて、どうのすみで、気を失っているかもしれねえ。……なにしろ裾野すその鏃鍛冶やじりかじで、おそろしい修羅場しゅらばは知らねえやつだから」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慷堂の痩躯そうくが蜂の巣のように銃弾を受けた日、彼の愛していた中国に、日本の渡洋爆撃機が空から盲爆を加えていた。上海は阿鼻叫喚あびきょうかん修羅場しゅらばと化していた。支那事変の勃発である。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その越ガ谷で、見世物師同士がぶっつかって、思いがけなく飛んだ修羅場しゅらばが始まったのさ。両方何十人という若い奴等が、あいつ等の喧嘩のことだから、生命知らずに切っつはっつだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かつ真剣の修羅場しゅらばてその上達もことのほか早く、おまけに蒲生泰軒がもうたいけんという鬼に金棒までついているので、左膳の乾雲、そうそうたやすくは栄三郎の坤竜を呼ぶことあたわずそのうえに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
最もエロチックにして毒々しき教育のモチーフは、千日前せんにちまえを散歩するとざらにころがっていた。私の家が千日前に近い関係上、ひまさえあると誰れかに連れられて私はこの修羅場しゅらばを歩きまわった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
甲州街道の鶴川では、雲助どもを相手に一場の修羅場しゅらばを出しました。その時は彼等をばかにしきって、乱雑無法なる使い方をして荒れました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あんじょう、慾心の修羅場しゅらばはなかなかやまなかった。鶏鳴けいめいを知らず、が照りだしたのを知らず、とうとう明日あしたになっても、蝋燭ろうそくを継いでそこだけの夜を守り、いよいよ悪戯わるさがたけなわになる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早くも修羅場しゅらばと呑み込んだ勘弁勘次は
「いやはや、すさまじいものを見せられた、先般の池田屋斬込みよりも、これはまた一段の修羅場しゅらばだ、やりもやったり!」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに筆とほんよりほか、修羅場しゅらばの中はご存知もありますまい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といううちに、その男は平地を飛ぶように桟敷の屋根の上を飛んで、正面大屋根の修羅場しゅらばへ駈けつけるのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すべてのものを弓矢つるぎ修羅場しゅらばなげうつような事にもなろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常ふだんは危ない芸当を平気でやっている軽業の美人連も、実地の修羅場しゅらばでは、どうしていいかわからないで一かたまりになってふるえていると、そこへ一手ひとての折助と遊び人とが