井筒いづつ)” の例文
上窄うえすぼまりになったおけ井筒いづつ、鉄のくるまは少しけてよく綱がはずれ、釣瓶つるべは一方しか無いので、釣瓶縄つるべなわの一端を屋根の柱にわえてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何処どこまで届けたらええのんかいいますと、南の太左衛門橋筋たざえもんばしすじの、笠屋町かさやまち井筒いづついう家やいいますねんけど、そんな料理屋聞いたことありません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たとえば井筒いづつならば井筒をひしにもすれば丸の中にも入れ、輪違いにもすれば四つ合せもするというように、一つの紋をいかほどにも変えて行くのである。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
又太郎は一室で、清楚な狩衣かりぎぬに着かえ、烏帽子も新しくして、若水を汲むべく、庭の井筒いづつへ降り立っていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女中に導かれるまでもなく、門からつい一足の右手は、花崗石の高さ三尺、径四尺ぐらいの井筒いづつがあって「走井」と彫ってある、そこから滾々こんこんと水を吹き上げている。
その二は一樹いちじゅ垂楊図すいようずの上部を限るかすみあいだより糸の如きその枝を吹きなびかす処、だいなる菱形ひしがた井筒いづつを中央にして前髪姿の若衆しま着流きながし羽織塗下駄ぬりげたこしらへにて居住いずま
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
境内けいだいすぎの木立ちに限られて、鈍い青色をしている空の下、円形の石の井筒いづつの上にかさのように垂れかかっている葉桜の上の方に、二羽の鷹が輪をかいて飛んでいたのである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
苔蒸こけむした井筒いづつあふれる水を素焼すやきかめへ落していたが、ほかの女たちはもう水をえたのか、皆甕を頭に載せて、しっきりなく飛びつばくらの中を、家々へ帰ろうとする所であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
井筒いづつ屋豊三郎は苦笑ひをし乍ら、氣味惡さうに四方を見廻すのでした。
「紙洗大尉どの、井筒いづつ副長どのが、至急お呼びであります」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
上らぬとなるとます/\意地になって、片手は錨、片手は井筒いづつの縁をつかみ、井の上にしかゝって不可見水底の柄杓とたたかって居ると
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
江戸の女は、うえかたで、伽羅油きゃらゆ、町方では井筒いづつ松金油まつかねあぶらと限っている
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東と北に一間の下屋げやをかけて、物置、女中部屋、薪小屋、食堂用の板敷とし、外に小さな浴室よくしつて、井筒いづつも栗の木の四角な井桁いげたえることにした。畑も一たん程買いたした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)