乗合のりあい)” の例文
旧字:乘合
このごろ著しく数を増した乗合のりあい自動車やトラック、又は海岸の別荘地に出這入ではいりする高級車の砂ホコリを後から後から浴びせられたり
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「もうそんなこと聞かんといてエな、今日は一日家のこと忘れてたいわ。」——奈良い着いたら直きに大軌だいきの終点から乗合のりあいに乗って
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
観音丸かんのんまるは直江津に安着あんちゃくせるなり。乗客は狂喜の声をげて、甲板デッキの上におどれり。拍手はおびただしく、観音丸かんのんまる万歳! 船長万歳! 乗合のりあい万歳!
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陸中国胆沢いさわ郡衣川村増沢と正しくは呼ぶ。今は愛宕あたごまで水沢から乗合のりあいが通うから、そこから一と山越えて一里余りを歩けばいい。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だから月世界に、乗合のりあいバスぐらいの大きさのものがあったとしたら、それは新望遠鏡には丁度一つの微小びしょうな点となって見えるだろうという……。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それが、今度は大分沢山宿屋も出来て、別府から食料品を運ぶ都合で乗合のりあい自動車が通うようになっていた。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
一日いちじつ深川の高橋から行徳ぎょうとくへ通う小さな汚い乗合のりあいのモーター船に乗って、浦安うらやすの海村に遊んだことがある。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
乗合のりあいはたくさんいた。たいていは異人のようであった。しかしいろいろな顔をしていた。空が曇って船が揺れた時、一人の女がてすりりかかって、しきりに泣いていた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家へ帰りたい気持はしぜんにあらわれて、知らずしらず歩いてきた道のほうを向いて立っていたのである。その前方から、警笛けいてきとともに、銀色の乗合のりあいバスが走ってきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
建石たていしがあり、右何々道左何々道と記されていたり、牛が向うから歩いて来たり、馬子まごがいたり、乗合のりあい馬車の点景があったり、巡礼姿が花の下にいたり、そして、酒めし
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
例えば衣服一つだけについて見ても、汽車や電車の乗合のりあい、その他若干の人の集りに行けば、髪から履物はきものから帯から上衣うわぎまで、ほとんと目録を作ることも不可能なる種類がある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
乗合のりあいはそんなにありません。兄様は離れたところに立っていられます。中流に出ますと大分揺れるので、兄様と目を見合せて、傍の席を指しますが、首を振って動かれません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
夜汽車で京都を出まして、夜の引明け頃松本から乗合のりあいで出ました。
殿下でんか乗合のりあい
どさどさぶちまけるように雪崩なだれて総立ちに電車を出る、乗合のりあいのあわただしさより、仲見世なかみせは、どっと音のするばかり、一面の薄墨へ、色を飛ばした男女なんにょの姿。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ドオオンて大きな音がしたって言う乗合のりあいのお客さんの話だったんですってさあ。ツヤ子さんのお父さんは
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第二図は頭巾ずきんかぶりしかみしもさむらい、町人、棟梁とうりょう、子供つれし女房、振袖ふりそでの娘、ものになふ下男など渡舟わたしぶね乗合のりあいたるを、船頭二人ふたり大きなる煙草入たばこいれをぶらさげへさきともに立ちさおさしゐる佃の渡しなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
猛雨と激流と深い山々と岩壁と雲の去来の中を走る船は竜宮りゅうぐう行きの乗合のりあいの如く、全くあたりの草木のしき形相と水だらけの世界は私に海底の心を起さしめた。ある旗亭きていでめしを食いつつ見おろした。
大谷には宇都宮から乗合のりあいが出る。二十分とはかからぬであろう。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
清洲橋という鉄橋が中洲から深川清住町きよずみちょうの岸へとかけられたのは、たしか昭和三年の春であろう。この橋には今だに乗合のりあい自動車の外、電車も通らず、人通りもまたさして激しくはない。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一行三人の乗合のりあいで端に一人仰向あおむけになってふなばたひじを懸けたのが調子低く
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのいわい赤飯こわめしだ。その上に船賃ふなちんを取らんのだ。乗合のりあいもそれは目出度めでたいと言うので、いくらか包んでる者もあり、即吟そくぎんで無理に一句浮べる者もありさ。まあおもい思いにいわッてやったとおもいたまえ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渡場わたしばに着くと、ちょうど乗合のりあいそろッていたので、すぐに乗込のりこんだ。船頭は未だなかッたが、ところ壮者わかいものだの、娘だの、女房かみさん達が大勢で働いて、乗合のりあい一箇ひとつずつおりをくれたと思い給え。見ると赤飯こわめしだ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日きのうただ綱を手繰たぐって、一人で越したです。乗合のりあいなんにもない。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)