一睨ひとにら)” の例文
あの友兄いの奴でもいりゃ、思いきり眼にもの見せてやるんだが、なあに、あの辺のお安いところならば、このお角さんの一睨ひとにらみでたくさんだ——
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
振返って、一睨ひとにらみ。杜若かきつばたの色も、青い虫ほどに小さくなった、小高い道に、小川が一条ひとすじ流れる。板の橋がかかった石段の上に、廻縁まわりえんのきれいなのが高く見えた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一睨ひとにらみすれば、わしにつかまれた、小雀こすずめではないか? おどしに掛けさえすれば、どんな言葉でも、拙者のいうことなら、受け容れる外にあるまい——さもなくば、恋も、夢もそれまで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ここが原本には眼目がんもくの見せ場なるが、実に残酷の絶頂に達せるものにて、一睨ひとにらみごとに手をつて喜ぶ見物すら下を向いて見ぬ位なれば、いくら出したくても出せなくなるは今のなり。
小児こどもが社殿に遊ぶ時、摺違すれちがって通っても、じろりと一睨ひとにらみをくれるばかり。威あって容易たやすく口を利かぬ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言句もんくは言わないまでも、苦い顔をして、ひげの中から一睨ひとにらみ睨むに違いはないんですもの、難有ありがたくないわ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其處そこへ、キラ/\するきんはりつて、一睨ひとにらにらまれましたときに、もううしなつたのでございます。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、いやらしく口を割って、黄色い歯で笑ったあとを一睨ひとにらみ睨んだ。目が光って
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)