一声いっせい)” の例文
旧字:一聲
一声いっせいわめいた。女史は極度に興奮してその場に立ちあがろうとするのを、隣席の老人は笑いながら後から抱きついて止めた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この時まで主人のあと温和おとなしいて来たのトムは、にわかに何を認めたか知らず、一声いっせい高く唸って飛鳥ひちょうの如くに駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
で、すぐに自分の座へ戻りかけるかのような物腰に見えた時、秀吉は、がい一声いっせいして、自分の膝に三法師君が在ることを——
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一声いっせい、サシ、下歌さげうた上歌あげうた初同しょどう、サシクセ、ロンギ、笛の舞、切りというような演出の順序とかいうものが、舞、謡
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その胸のあたりを、一突ひとつき強くくと、女はキャッと一声いっせい叫ぶと、そのまま何処どことも知らず駈出かけだして姿が見えなくなった。
月夜峠 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
貞之進はじっとその男の顔を瞻詰みつめて、しきりに唇を顫わしていたが、大喝たいかつ一声いっせい、何ッと言放した音の鋭かったことは、それまでに顕われた貞之進の性行を
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
Auオオ revoirルヴォアアル!」の一声いっせいを残して、狭い横町を大股おおまたに歩み去る大村を、純一は暫く見送って、ゆうべ薄衣うすぎぬに次第に包まれてく街を、追分の方へ出た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一声いっせいの汽笛が高く長く尻を引いて動き出した上野の一番汽車は、見る見るうちに岡の裾をめぐッて、根岸に入ッたかと思うと、天王寺の森にその煙も見えなくなッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
脚絆きゃはん足袋たびも、紺の色あせ、のみならず血色ちいろなき小指現われぬ。一声いっせい高く竹のるる音して、勢いよく燃え上がりし炎は足を焦がさんとす、されどおきなは足を引かざりき。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
思切おもいきり大声を張上はりあげて「誰だ!」と大喝だいかつ一声いっせい叫んだ、すると先方さきは、それでさも安心した様に、「先生ですか」というのだ、私はその声を聞いて、「吉田よしだ君かい」というと
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
耳をつんざく一声いっせいつのを合図に、粉々として乱れる矢の中を、門の内から耳のとがった、きばの鋭い、狩犬が六七頭すさまじいうなり声を立てながら、夜目にも白くほこりを巻いて
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
主人が声援せいえんしたので、デカは思切ってワンと噛みにかゝったら、口か舌かをされたと見え、一声いっせい悲鳴ひめいをあげて飛びのき、それから限なく口から白泡しらあわを吐いて、一時は如何どうなる事かと危ぶんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
妻君は定めて上等の縮緬ちりめんに花などいしたる立派な襟ならんと思い、そうっと水引を抜き、大切に包み紙をひらきて中の品物を取出し「オヤ」と一声いっせい叫びぬ。お登和もちょいとのぞきて驚きたる様子。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女史と相別れしのちしょう土倉どくら氏の学資を受くるの資格なきことを自覚し、職業に貴賤きせんなし、ひとしく皆神聖なり、身には襤褸らんるまとうとも心ににしきの美を飾りつつ、しばらく自活の道を立て、やがて霹靂へきれき一声いっせい
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一声いっせい叫んだ。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
一声いっせいの囃子をあしらい初めるのであるが、それがだんだん調子に乗って熱を持って来ると、翁の本来の地金をあらわしてトテモ猛烈な稽古になって来る。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
突如、絹を裂くような悲鳴ひめい一声いっせい
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)