そのとき草地の東端へ、樹立の中からひとりの若侍が走せつけて来た。彼は同じ藩のさむらいで菅野又五郎すがのまたごろうという、蒼白あおじろせて、とげとげした、絶望的な顔つきで、ひどく血ばしった眼をしている。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)