そもわが文士としての生涯は明治三十一年わが二十歳の秋、『すだれの月』と題せし未定の草稿一篇を携へ、牛込矢来町うしごめやらいちょうなる広津柳浪ひろつりゅうろう先生の門を叩きし日より始まりしものといふべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)