万法蔵院の北の山陰に、昔から小な庵室あんしつがあった。昔からと言うのは、村人がすべて、そう信じて居たのである。荒廃すれば繕い繕いして、人は住まぬ廬に、孔雀明王像くじゃくみょうおうぞうが据えてあった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)