駄馬だば)” の例文
昭和通しょうわどおりに二つ並んで建ちかかっている大ビルディングの鉄骨構造をねらったピントの中へ板橋いたばしあたりから来たかと思う駄馬だばが顔を出したり
カメラをさげて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その向こうには、某町なにがしまちから某町なにがしまちに通ずる県道の舟橋がかゝつてゐて、駄馬だばや荷車の通る処に、橋の板の鳴る音が静かな午前の空気に轟いて聞えた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
依然として徒食する人達や、駄馬だばの背から、飛降りて道を避けさせた人達に向けられたことは言うまでもない。
銭形平次打明け話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一駄というのは駄馬だば一頭に背負わせるほどの荷物のことだから、萱はかるいといっても二十貫いじょうはある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貢君は余等の毛布や、関翁から天幕へみやげ物の南瓜とうなす真桑瓜まくわうり玉蜀黍とうもろこし甘藍きゃべつなぞを駄馬だばに積み、其上に打乗って先発する。仔馬こうまがヒョコ/\ついて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おまえは、ここにいるほうがよかろ。おまえなんざ、一生いっしょうかかったって、駄馬だば一つ手にはいりゃしないよ」
しかし不思議ふしぎなことには、どのうまもどのうまみなたくましい駿馬しゅんめばかりで、毛並けなみみのもじゃもじゃした、イヤにあしばかりふと駄馬だばなどは何処どこにもかけないのでした。
水車場とこの屋との間を家鶏にわとりの一群れゆききし、もし五月雨さみだれ降りつづくころなど、荷物ける駄馬だば、水車場の軒先に立てば黒き水はひづめのわきを白きわら浮かべて流れ
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
時には「尾州藩御用」とした戦地行きの荷物が駄馬だばの背に積まれて、深い山間やまあい谿たにに響き渡るような鈴音と共に、それが幾頭となく半蔵らの帰って行く道に続いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ジャン・ヴァルジャンはむながいをとらえて駄馬だばを引きつれるように、鞅縛りにした繩を取って、ジャヴェルを引き立て、自分のうしろに引き連れながら、居酒屋の外に出た。
それでも所々ところどころ宅地の隅などに、豌豆えんどうつるを竹にからませたり、金網かなあみにわとりを囲い飼いにしたりするのが閑静にながめられた。市中から帰る駄馬だばが仕切りなくれ違って行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あわれ、駄馬だばといえども、これらの馬どもは、過ぐる年の、西国遠征のときも、生死をともにした仲である。どのハナづらも、朝夕に、何百ぺんなでてきたやつか知れないのだ。
だんだん南の山の中へ進んで行くこと七里ばかりにしてカンマという駅に着き小休みして居りますと、十二、三頭の駄馬だばの中に私の荷物は全く二疋の馬に載せられてどしどしやって行く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「いや、あれほど心を入れてえば、駄馬だばでも名馬にならずにはいまい」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
炭焼君すみやきくんの家で昼の握飯にぎりめしを食って、放牧場ほうぼくじょうはしから二たび斗満上流じょうりゅう山谷さんこくを回顧し、ニケウルルバクシナイに来ると、妻は鶴子をいて駄馬だばに乗った。貢君みつぎくん口綱くちづなをとって行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
伊那いな中馬ちゅうま、木曾の牛、あんこ馬(駄馬だば)、それから雲助の仕事なぞがそれだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麒麟きりんも老いれば駄馬だばとなるというが、いやはや、あの滝川の末路はよ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春とは言いながら石を載せた坂屋根に残った雪、街道のそばにつないである駄馬だば、壁をもれる煙——寝覚の蕎麦屋あたりもまだ冬ごもりの状態から完全に抜けきらないように見えていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)