)” の例文
その外のあたり人にびて退いて人をそしるとか、表面うわべで尊敬して裏面りめん排撃はいげきするとか社会の人に心の礼のない事は歎ずるに余りあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
忘れんとして躊躇ちゅうちょする毛筋の末を引いて、細いえにしに、絶えるほどにつながるる今と昔を、のあたりに結び合わすにおいである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駒井氏は、あれを翻訳し、自ら草稿を作ったり、或いはお松にのあたり口授くじゅしたりして、著作を試みているに相違ない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十万不冥の死者を出した災変をのあたり見せられて、何人か茫然自失しないものがあるだろうか。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
の当り実見じっけんしたのは初めてだと流石さすがのこの男が私に話したのであった。
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
若い方が御辞儀をして帰りかける頃は、榊は見るもの聞くもの面白くないという風で、のあたりその妓をののしった。そして、貰って帰って行った後で、腐った肉にとまる蠅のように言って笑った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大儀ぞの一聲を此上なき譽と人も思ひ我れも誇りし日もありしに、如何に末の世とは言ひながら、露忍ぶ木蔭こかげもなく彷徨さまよひ給へる今の痛はしきに、こゝろよき一夜の宿も得せず、のあたり主をはぢしめて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
やはりのあたり自然に接して、朝な夕なに雲容煙態うんようえんたいを研究したあげく、あの色こそと思ったとき、すぐ三脚几さんきゃくきを担いで飛び出さなければならん。色は刹那せつなに移る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三味しゃみが思わぬパノラマを余の眼前がんぜんに展開するにつけ、余はゆかしい過去ののあたりに立って、二十年の昔に住む、頑是がんぜなき小僧と、成り済ましたとき、突然風呂場の戸がさらりといた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窮陰きゅういんのあたりなるを忘るべき園遊会は高柳君にとって敵地である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なまぐさいものをのあたり咽喉のどの奥から金盥かなだらいの中に傾けた事もあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)